【実証実験レポート】デジタルテクノロジーの活用でレースの臨場感を楽しんでほしい。数理研究所・テクノツール株式会社それぞれの挑戦

数理研究所_アイキャッチ用

10月15日(土)・16日(日)に、岡山国際サーキットで開催された「ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook 第6戦 『スーパー耐久レースin岡山』」。「Mobility for ALL」アイデアコンテストの一次選考を通過した17チームは、会場内外で実証実験を行っていました。

中でも数理研究所は、フォーミュラレースにおけるレーシングカーの感情を読み取る技術を実証。「レーシングカーと人のシンクロ」を叶える感情地図を、ブースで体感できました。

また別会場である岡山トヨタ PLATPORT(プラットポート)では、「スーパー耐久レース パブリックビューイングEVENT」を開催。参加チームのひとつであるテクノツール株式会社は、肢体に障がいがあってもシミュレーターレースを楽しめるような入力装置を開発しています。当日はシミュレーターレースを体験する人が後を絶ちませんでした。

会場は違えど、デジタルテクノロジーを活用したレースの楽しみ方を提案している両チーム。どのように実証実験を進めていたか、賑わっていた様子をレポートします。

感情地図があれば、レーシングカーの感情が分かる。レースをリアルに体感する技術

数理研究所_最高スピード

東京大学の光吉俊二(みつよし しゅんじ)博士は、レーシングカーの感情を理解するために生体現象と感情の関係を把握した感情地図を考案しています。激しいレースの中で刻々と変化するレーシングカーの状態を、感情の変化として誰でも理解できる仕組みを構築しているのです。

数理研究所_カーブ

例えば、時速300kmを超える高速走行の場合、公道を走行する自動車とは比較にならないほどの負荷がレーシングカーとレーサーに加わっています。これらの状態を感情にすると「このカーブ、きつい」や「最高スピードです!」等と変換され、「レーシングカーと人のシンクロ」が実現します。実証実験当日は、障がいの有無問わず多くの人がブースを訪れていました。

強い目線やうなずきを見せる選考委員の様子に手応え

数理研究所_集合写真

今回は予め録画したレースの映像に、感情地図を反映。実証実験終了後に光吉博士に話を聞くと、大きな手応えを感じているようでした。

実証実験を終えた今の感想を教えてください。

光吉(敬称略)
「勝った!」と思いました。選考委員のみなさんが熱心に「感情地図はどのような意味を表しているのか」と聞いてくださったので。

具体的にはどのような反応が?

光吉
「目」です。強い目線。あとは「うなずき」。みなさんの反応や笑顔を見て「あ、心が動いているんだな」と分かりました。

あとは「レーシングカーの感情が分かるのが楽しい」「運転したくなった」という感想も。長年研究しているものの、あまり理解されないまま開発を進めてきましたが昨今のデジタル技術の進化もあり、ようやくみなさんに興味を示してもらえるようになりました。その成果のひとつが今日の反応だったのだと思います。

今後に向けて、見えてきた課題はありますか?

光吉
通信環境の確保です。岡山国際サーキットの通信環境はいいとはいえず、今日は事前に録画した映像で実証実験を行いました。

今後は、実際のレースと感情地図をリアルタイムで連携したいと考えています。実現するためには私達の技術だけではなく、会場の環境整備も必要。関係者との連携を視野に入れながら、実用化を目指していきます。

数理研究所_感情地図

レースの映像と、レーシングカーの感情と、感情の元となっている感情地図。3つの画面を並べた状態でレースを見ていると、今までに感じたことのないワクワク感を覚えました。選考委員やブースを訪れた人が、集中して感情地図を見つめていたのが印象的でした。

光吉博士・感情地図

その人に合った入力用デバイスを。誰もがシミュレーターレースに参加できる未来

テクノツール_実証_女性

テクノツール株式会社(以下、テクノツール)は、肢体に障がいを持つ人によるIT機器やゲーム等の入力作業をサポートする装置(入力インターフェイス)等を開発している会社です。

中でもe-Racing Project(イー・レーシング・プロジェクト)は、特に力を入れています。肢体に障がいがあってもシミュレーターレースを楽しめるように、専用の入力装置を開発中です。実証実験当日は、車いすユーザーの方を中心に多くの人がシミュレーターレースを体験しました。

テクノツール_説明
右側にいるのは、協働している長屋宏和さん

また協働している長屋宏和(ながや ひろかず)さんが、体験者に声を掛けている様子も。長屋さんは元F3レーシングドライバーであり、肢体障がい者でもあります。

障がいのある方が経験できる選択肢を増やしたい

テクノツール 代表取締役の島田真太郎(しまだ しんたろう)さんと、広報部の干場慎也(ほしば しんや)さんに、実証の感想等を聞きました。

テクノツール_干場さん
広報部 干場慎也さん
今日はどのような実証実験をしましたか。

島田(敬称略)
シミュレーターレースの操作方法を体験者が合わせるのではなく、体験者に合わせて操作方法を変える実証を続けました。障がいの種類や程度を問わず、誰もがレースに参加できると発信したかったからです。

例えば、Aさんの場合は左手でアクセルブレーキができるレバー・右手でハンドル操作。Bさんの場合は顎でジョイスティック・右手でアクセルブレーキ。Cさんの場合は視線入力と、操作方法も様々に開発しています。

「体験者に合わせて操作方法を変える」のは、どのように実現したのでしょう。

干場(敬称略)
当日来られた方それぞれから状況を聞き、その場でプログラムしてその人に合った入力用のデバイスを用意しました。体験後はフィードバックをいただいています。

体験された方の様子を見ると、コースの1周目は車をあちこちにぶつけていましたが、2~3周するとスムーズに操作されていました。第一声で「楽しい!」の声を多く聞けたのはうれしかったです。

今日の実証実験を、どのように活かしていきたいですか。

干場
肢体障がいを持つ方にシミュレーターレースを体験していただき、使いやすいか使いにくいかのデータを集められたのは価値がありました。

障がいを持っているとできることが限られたり、見える景色が全く違ったりします。それを補う物があるだけで、先々に経験できる選択肢はかなり増えると思うんです。そういった選択肢が増える機会を提供していきたいと考えています。

テクノツール_実証_男性

1日を通して訪れる人が途切れなかった、テクノツールの体験ブース。ある体験者が「楽しかった。今までレースのゲーム等体験したことがなかったので、とても楽しみにしてきた。筋力が弱いので長時間操作することができなかったけれど、ぜひまたやりたい」と話していたのが印象的でした。

テクノツール:レーシングシュミレーター

おわりに

デジタルテクノロジーを活用して、誰もが臨場感を持ってレースを楽しめる方法を開発している数理研究所テクノツール。体験者のワクワク感が伝わってきて、レースの楽しみ方の広がりを感じました。

最新技術を扱っている両チームは、今後どのように実用化を目指していくのでしょう。再び体験できる日が来ることを、心待ちにしたいと思います。

Mobility for ALL 実証動画

実証実験の様子を、動画でも紹介します。

数理研究所

テクノツール株式会社

当サイトについて

トヨタ・モビリティ基金 アイデアコンテスト
「Make a Move PROJECT」の活動報告サイト

当サイトは、トヨタ・モビリティ基金が開催する「もっといいモビリティ社会」をつくるアイデアコンテスト「Make a Move PROJECT」の活動報告を配信する特設サイトです。

このプロジェクトをシェア