障がいがあっても楽しめるシミュレーターレース。入力装置の工夫で広がる世界を知ってほしい

テクノツール:レーシングシュミレーター

テクノツール株式会社は、肢体に障がいを持つ人によるIT機器やゲーム等の入力作業をサポートする装置(入力インターフェイス)等を開発しています。

テクノツールが力を入れているプロジェクトのひとつが、e-Racing Project(イー・レーシング・プロジェクト)です。肢体に障がいがあってもシミュレーターレースを楽しめるよう、専用の入力装置を開発しています。

また同プロジェクトでは、元F3レーシングドライバーとして活躍した経歴があり、自身も肢体障がい者でもある長屋宏和(ながや ひろかず)さんと協働。

シミュレーターレースの魅力を、より多くの人に届ける活動を展開しているのです。リアルな映像とサウンドによるレーシング体験は、今までにない新たな感動を味わえます。

肢体の不自由な方でもシミュレーターレースが楽しめる入力装置を開発

テクノツール:レーシングシュミレーターの入力装置
レーシングシミュレーターの入力装置

もともとe-Racing Projectは、長屋宏和さんのためのプロジェクトでした。

F3レースの世界で活躍していた長屋さんを、今度はシミュレーターレースといった「eモータースポーツ」の世界に挑戦してもらうことを目標に始まったのです。

そのために、肢体に障がいがあっても操作ができるレーシングシミュレーター(シミュレーターレースを行う機器)の入力装置を開発し、長屋さんとともに実験を続けてきました。

テクノツール:長屋宏和氏
長屋宏和さん

もともとテクノツールは、肢体が不自由な方に向けたIT機器の入力装置を多数開発してきた実績があります。その技術やノウハウを活かし、長屋さんとタッグチームを組んでプロジェクトを進めてきたのです。

そこからプロジェクトの目標が広がり、長屋さんだけでなく、様々な状況の肢体の不自由な方でもシミュレーターレースが楽しめる多様な入力装置を開発し、提供することが目標になりました。

元F3レーサーの長屋宏和さんとの出会いで始まったe-Racing Project

テクノツール:代表 島田真太郎氏
代表 島田真太郎さん

テクノツール株式会社の代表取締役・島田真太郎(しまだ しんたろう)さんに、レーシングシミュレーターのプロジェクトについて話を聞きました。

テクノツールはいつごろ創業したのですか。

島田(敬称略)
テクノツールを創業したのは、私の父です。もともと父は、まったく異分野でエンジニアとして働いていました。

創業のきっかけは娘、つまり私の姉です。姉には重い障がいがあったので、それが「障がい福祉の分野で、自分の力を活かしたい」という思いに繋がり、起業したと聞いています。

1994年に創業したのですが、ちょうどそのころはWindows 95が発売される直前でした。

パソコン(パーソナル・コンピューター)の可能性が期待されていた時代で、障がいのある方でもパソコンを活用すれば様々な活躍ができるという機運があったんです。

しかしながら当時のパソコンの入力方法は、キーボードとマウス。これだけだと、手が不自由な方等は入力が困難です。

そこで父は、障がいのある方でもパソコンを操作できる入力装置をつくる事業を開始したんです。

以降、パソコン・スマートフォンからゲームまで、IT関連機器の入力装置・入力インターフェースの開発をしています。

テクノツール:レーシングシミュレーターイメージ図
レーシングシミュレーター イメージ図
長屋宏和さんと、どういう経緯でe-Racing Projectを始めることになったのですか。

島田
2020年に当社は、Nintendo Switch公式コントローラーとして、手の不自由な方向けのゲームコントローラーFlex Controller(フレックス・コントローラー)」の開発を監修しました。

販売後も元パラリンピック選手とともに、そのコントローラーの普及活動を展開しています。

その元パラリンピック選手から、長屋宏和さんがコントローラーに興味をもち、ゲームをやってみたいと言っていると紹介されたんです。これが当社と長屋さんとの出会い。

その後、長屋さんから「シミュレーターレースにも興味をもっている」という話がありました。

これがきっかけで、長屋さんがシミュレーターレースの大会に参加できるよう、長屋さんと一緒に入力装置を開発していくプロジェクトが発足したんです。

その後は長屋さんだけでなく、多くの肢体の不自由な方に向けてレーシングシミュレーターの入力装置を開発しているとのことですが、そのきっかけは?

島田
実はプロジェクトが始まる当初から、長屋さんが希望していたことだったんです。

自分が操作できるレーシングシミュレーターの入力装置が完成したら、次は多くの肢体の不自由な方に向けて入力装置を提供したい。そのときは、長屋さん自身が広告塔になって広めたいという思いをお持ちでした。

障がいをもつ方でもシミュレーターレースを楽しんでもらい、eモータースポーツの人口を広げたい

テクノツール:レーシングシミュレーターを操作する長屋さん
レーシングシミュレーターを操作する長屋さん
肢体の不自由な方も様々なケースがありますが、どのように対応しますか。

島田
もともと当社では、Nintendo Switchの「Flex Controller」で幅広いケースの障がいへの対応をしてきました。

ゲームで必要な複雑な操作を、様々なケースの障がいの方でも操作できるようにしてきた実績があります。Flex Controllerでのノウハウを、レーシングシミュレーターでも活かしていきます

例えばですが、腕の震えがある方には、震えを吸収する機能のあるジョイスティック。また押しボタン型のスイッチを体に配置して操作するとか、アゴを使って操作するジョイスティックとかの方法があります。

他にも視線入力といって、眼球の動きを解析して操作する方法等もあるんです。

ただしまだ開発途中なので、様々なケースの当事者の方と協力しながら、進めていきます。実際に使用してみると、いろいろと改良点等は出てくると思いますので。

当社の社員にも肢体に障がいをもつ社員がいるため、協力しながら開発を進めています。

e-Racing Projectでは、テクノツールが開発しているのは入力装置だけですか。

島田
そうですね。我々は、得意分野である入力装置を開発しています。

シミュレーターレースのゲーム自体は、株式会社ゼンカイレーシング様から提供を受けています。

ゼンカイレーシング様のレーシングシミュレーターはとてもリアルでして、画面はもちろん、操作性、振動、音、全てが本当に運転しているような感覚になる、すごい技術をお持ちです。

プロのレーサーが練習用に使うほどの、素晴らしいものを使っています。

課題はありますか。

島田
レースとなると、一瞬の判断が必要になる場面があります。またハンドル操作・アクセル・ブレーキ・シフトチェンジを同時に行う等、複雑かつ素早い操作も必要

それらを肢体が不自由な方 向けの入力装置で、どこまで再現していけるか。これはとても深い課題だと感じています

テクノツール:レーシングシュミレーター
一般車両の運転練習用等、日常生活への応用は考えていますか。

島田
実は最初、いずれは日常生活への応用ができるんじゃないかと考えていました。

しかし実際に開発を進めていくと、レースと公道を走る日常生活での運転では、求められるものが想像以上に違っていたんです。

求められるものが違うのに、無理に関連付けるのはよくないと考えていますので、我々が開発しているものはレースに特化しているものと割り切っています。

障がいをもつ方でもレーシングシミュレーターを楽しんでもらい、eモータースポーツの人口を広げていくのが、我々の目標です。

10月15日・16日、岡山国際サーキットでの実証実験では、どんなことを行いますか?

島田
津山市の岡山トヨタPLATPORT(プラットポート)にて、シミュレーターレースの実演と体験を予定しています。なるべく多くの方に、シミュレーターレースを体験していただけるようにしたいです。

当日は長屋さんも来場し、レースの実演をしていただきます。

長屋さんもレーサーとして、多くの人にシミュレーターレースの魅力が伝わるよう、とても楽しみにしていると話していましたよ。

読者に伝えたいことやメッセージがあれば教えてください。

島田
eスポーツの世界はリアル世界のスポーツよりも、障がいのある方とそうでない方が同じ土俵に立ちやすいと思うんです

障がいのある方のハンディキャップを、様々なIT技術でカバーできるから。

現段階ではまだまだカバーし切れておらず、障がいのある方のeスポーツ参加者も少ないため、同じ土俵に立つには時間がかかると思います。

しかし同じ土俵に立てる可能性がリアルスポーツより高いのは、eスポーツの魅力ではないでしょうか。

テクノツールはレーシングシミュレーターの入力装置を通じて、障がいのある方のeモータースポーツ愛好家を増やし、eスポーツを盛り上げていきたいと思います。

そして早く、障がいのある方とない方が同じようにeスポーツを楽しめるよう、力になれればうれしいですね。

入力装置の工夫で広がる”可能性”を多くの人に知ってほしい

代表の島田さんは「今回はレーシングシミュレーターですが、どのようなものでも入力装置・入力インターフェースを工夫すれば、障がいのある方でもいろいろなことができるということを知ってほしい」と話します。

そして「それを障がいの有無関係なく多くの人に知ってもらえれば、世の中の様々なサービスの可能性が広がると思います」と語りました。

入力装置を通じた強い思いをもつテクノツール株式会社に注目です。

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