【実証実験レポート】だれもがリアルタイムに情報を得て観戦を楽しめる 岡山放送(OHK)・電通・Field of Visionの挑戦

岡山国際サーキットday2

10月15日(土)・16日(日)に岡山国際サーキットで「ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook 第6戦 『スーパー耐久レースin岡山』」に合わせて開催された「Mobility for ALL」。一般財団法人トヨタ・モビリティ基金が「移動の可能性を、すべての人に。」をコンセプトに、アイデアやソリューションの社会実装を目指すアイデアコンテストです。

カーレースで盛り上がる客席やイベント会場にて、一次選考を通過した17チームが最終選考に進もうと実証実験を行いました。

中でも、「リアルタイムに情報を得る」という視点で挑戦したのが、岡山放送株式会社(以下OHK)、株式会社電通Field of Visionの3チームです。取り組み内容のほか、実証実験を経て得られた気づきなどを紹介します。

OHK 「誰もがモータースポーツを楽しめる」4つの取り組み

OHKは手話放送約30年の実績をもとに、Mobility for ALLで4つの取り組みを行いました。

  1. ユニバーサル実況(カーレースの音声実況&手話実況)
  2. 遠隔手話通訳(観光地の旅館にてQRコードを読み取ると、離れた場所にいる手話通訳者を介しコミュニケーションがとれる)
  3. シュワQ(QRコードを読み取ると手話・字幕・音声を組み合わせた観光案内情報を閲覧できる)
  4. 備前焼サーキット(備前焼で岡山国際サーキットのコースを再現)
OHKユニバーサル実況

岡山国際サーキットの会場では、客席でカーレース中に聴覚障がい者がタブレット端末でユニバーサル実況を視聴する実証実験のほか、ブースにて備前焼サーキットとシュワQのQRコードの展示が行われました。

OHK アナウンサーで情報アクセシビリティ推進室の室長も務める篠田吉央(しのだ よしお)さんに話を聞きました。

OHK篠田さん
OHKの篠田さん
今回の取り組みで大切にしたポイントは何ですか。

篠田(敬称略)
情報から誰一人取り残されない」ということを目指しました。例えば聴覚障がい者にリアルタイムでのレースの興奮や駆け引きをどうしたら伝えられるか。やはりキーになるのは「情報」です。ユニバーサル実況では、これまでOHKが聴覚障がい者と一緒に築いてきた手話で情報を届ける仕組みをモータースポーツに活かしました。

手話実況を担当したろう者の早瀬憲太郎(はやせ けんたろう)さんはデフリンピックに出場経験があるアスリートです。仕組みとしては、まずアナウンサーのレース実況を、健常者の手話通訳者が手話で表現し、それを見た早瀬さんが自分で感じたレースの様子と組み合わせて、表情と手話から表現力豊かに伝えます

遠隔手話通訳、シュワQも、健常者と同じ感覚で情報収集ができるようにという考えのもと取り組みました。「自分のタイミングで情報を取りに行ける」と、主体性を喜びとして実感する声をいただきました。

OHK シュワQ
ほかに体験した方からはどんな声がありましたか。

篠田
ユニバーサル実況の実証実験では、初めてレースに参加できてよかったという声がありました。やはりリアルタイムに情報を得ながら観戦できることが大切なのだと感じました。

備前焼サーキットについては「サーキットって楕円形だと思っていたけどこんなに複雑だったんですね」という声を視覚障がいを持つ方からいただきました。複雑なカーブがたくさんあるサーキットの形をイメージすることで、カーレースの躍動感をより実感してもらいやすくなると思います。

OHK備前焼サーキット

表現力豊かな早瀬さんの手話実況を実際に見て、健常者にとってもレースの臨場感が手に取るようにわかると感じました。

手話が語る福祉

株式会社電通 視覚障がい者の情報格差をなくす音声実況AI「Voice Watch」

株式会社電通 Future Creative Centerを始めとする電通グループのチームが開発しているVoice Watch(ボイスウォッチ)は、視覚障がい者の情報格差をなくすための音声実況AIです。

レーシングカーのラップタイムやチームの順位等が記載されたタイミングモニターから得られる走行データ、スマートフォンのカメラから受け取る大量のデータを瞬時に処理し、これから起こるであろう変化の兆しをつかみ、実況していく仕組みです。

電通 実証実験

実際にカーレースが行われる岡山国際サーキットの客席で、ヘッドホンをつけての実証実験が行われました。「トップを走る○○は…」、「セクター2に入りました」などAIがレースを予測しながらリアルタイムに解説。一定の時間、沈黙が続くと自動でサーキットの紹介など小話が入る仕組みにもなっています。

写真左から2人目が志村さん
写真左から2人目が志村さん

Voice Watch開発プロジェクトのクリエイティブ・ディレクターである志村和広(しむら かずひろ)さんにお話を聞きました。

Voice Watchの開発から見えたAIの強みはどんなところですか。

志村(敬称略)
AIは様々なことを予測します。例えば後ろから追い上げるスピードを計算し、逆転して1位になりうるといったこともわかります。けれど、「逆転なるか!」など結果が見えそうで見えない表現も、聞き手を巻き込むコツだと、プロの実況者の音声データを学習する過程でわかり、反映しています。

人には知識、AIには予測する力、それぞれに強みがあります。何時間も疲れずに話せるのもAIの強みなので、おもしろい実況を低価格で提供できる可能性があります。

実証実験での体験者の反応はいかがでしたか。

志村
今後の展開例のひとつとして考えている幼稚園や小学校などの運動会での活用についても話したのですが、体験者の方たちから関心を持ってもらえました。「孫のお遊戯会であったらいい」という話も出て、具体的にイメージしていただけたのが良かったです。

岡山国際サーキットday2

実証実験では運動会でのVoice Watchの活用について、「徒競走は勝ち負けが見た目でわかりやすいから実装できそう」、「玉入れは最後まで結果がわからないからこそおもしろい。実装が難しそう」といった話題で盛り上がっていたのが印象的でした。

Voice Watch

Field of Vision 触覚と音声で情報を伝える携帯型タッチベース端末

アイルランドから参加したField of Visionは20代の3人組チームです。これまでオーストラリアンフットボールの試合で導入したことがある携帯型タッチベース端末を、カーレースに向けて準備してきました。

オーストラリアンフットボールではボールの動きを可動式のボタンで表現していますが、カーレースでは2つの可動式のボタンで車の動き(勝負の行方)を表現することにチャレンジ。また、3つの音声ボタンも備え、押すとドライバーの情報や、順位、インフォメーションを聞くことができます。

Field of Visionチーム
Field of VisionのTim Farrellyさん(左)とDavid Deneherさん(右)

Field of Vision のDavid Deneherさんに話を聞きました。

カーレースでの導入に当たり、苦労した点はありますか

David(敬称略)
カーレースの文化がそもそもアイルランドにはなく、そのルールや楽しみ方を知るところからのスタートでした。

車のデッドヒートを表現するのか、サーキットを周回する車を表現するのか迷った結果、2つの可動式ボタンでデッドヒートを表現しようと試みたのですが、実際のカーレースでは車が近づいたり離れたりしないことも多いとわかり、その前提を理解するのに苦労しました。

Field of Visionデバイス
今後の展開について教えてください

David
カーレースでも実装できたら、どんなスポーツでも実装できる可能性があると考え、挑戦しました。今後はフットボールのほか、ラグビーやテニスなどボールを使ったスポーツを中心に展開を広げるべく、チャレンジを続けていきます。

岡山国際サーキットday2

アイルランドではカーレースの文化がないことから、体験者の声を聞けるのを楽しみにしていたそうで、当日まで改良を重ね、実証実験に臨んでいました。

デバイス

おわりに

だれもがリアルタイムに情報を得て観戦できるようチャレンジした3チーム。障がいが壁とならずリアルタイムにその場でレースを楽しめる喜びを創造しました。実装するフィールドを変えるとまた新たな可能性が広がりそうで、今後の展開も楽しみです。

Mobility for ALL 実証動画

実証実験の様子を、動画でも紹介します。

岡山放送株式会社

株式会社電通

Field of Vision

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