手話放送約30年の実績をもとに「情報から誰一人取り残されないモータースポーツ観戦」を目指す

手話が語る福祉

2022年4月1日で開局53年を迎えた岡山放送株式会社。OHKの略称で地元岡山県では親しまれています。長い歴史の中でOHKが積極的に取り組んでいるのが、手話放送です。

OHKは全国の放送局の中でも手話放送のパイオニア的存在であり、その放送スタイルは「岡山モデル」として全国から注目されています。

手話放送を始めて約30年。

OHKが聴覚障がい者と一緒に築いてきた情報を届ける仕組みは、モータースポーツの世界への扉を開こうとしています。

情報から誰一人取り残されないモータースポーツ観戦を目指す

モータースポーツは、世界の誰もが楽しめるエンターテインメントではないのかと考えたOHK アナウンサーで情報アクセシビリティ推進室の室長も務める篠田吉央(しのだ よしお)さんは、障がい者にも楽しさを伝えるために動き出しました。

コンテスト Mobility for ALL に応募するため、社内に呼びかけチームを結成。長年培ってきた手話放送の経験をもとに、情報伝達の方向からモータースポーツの素晴らしさを全ての人に体験してもらうシステムを実現しようと奮闘しています。

「情報から誰一人取り残されないモータースポーツ観戦を目指す」プロジェクトとは

岡山放送株式会社(以降OHKと表記)が手話放送を開始したのは1993年2月。以来OHKが目指しているのは「情報から誰一人取り残されない社会の実現」です。

手話放送を通して、聴覚障がい者に様々な情報を伝えてきた中で、まだ伝えきれていない分野がモータースポーツの世界でした。エンターテインメント性が高いモータースポーツの楽しさを聴覚・視覚障がい者の皆さんに伝えたい!その思いを実現するのが「情報から誰一人取り残されないモータースポーツ観戦を目指す」プロジェクトです。

OHKが取り組むプロジェクトは4つのアイディアがあり、3つのカテゴリーに分かれています。

手話によるユニバーサル実況

手話によるユニバーサル実況

手話によるユニバーサル実況は、インターネットで配信されるレース実況を手話に訳して、レースを楽しんでもらう取り組みです。配信される動画には、音声実況と手話実況の2つが同時に流れ全ての人に情報を届けます。レースの実況を聴覚障がい者の方々に伝えることで、今まで体験できなかったモータースポーツの楽しさを味わってもらうことが狙いです。

手話実況者は、東京のフジテレビで、F1等を担当したアナウンサーから直接指導を受け、スポーツ実況のポイントを学びました。

QRコードを使った通訳と情報発信

QRコードを使った通訳

OHKは、QRコードを使った手話通訳にもチャレンジしています。OHKが開発した「シュワQ」は、QRコードを読み取ると、手話動画や字幕での案内が見られたり解説音声が聞けたりというユニバーサル対応のシステム。

様々なポイントに設置することで、障がい者が簡単に各サービスやコンテンツにアクセスできるようになります。

また、CGによる手話案内も開発中で、シーンに応じて人が行う手話通訳とCGによる手話を使い分ける予定だそう。

CGによる手話のデジタル化

備前焼を使ったサーキット体験

備前焼を使ったサーキット体験

岡山国際サーキットの会場にサーキットの縮尺模型を用意して観戦者に触ってもらい、サーキットをより具体的にイメージできるような体験を提供します。

縮尺模型はなんと備前焼

備前焼のザラザラした感触は、サーキットコースのアスファルトに似ています。カーブの角度や勾配等も忠実に再現しているので、視覚障がい者が触れることで、サーキットを事前にイメージすることができます。

10月15日・16日に岡山国際サーキットで開かれるレースでは、これら3つのカテゴリーの実証実験を行う予定です。

障がい者のためのプロジェクトでもあり健常者のためでもあるプロジェクト

岡山国際サーキットを歩く

OHKの取り組みは、障がい者だけではなく健常者にも、より多く情報を得られるというメリットがあります。OHKは全ての人にとって便利になる「ユニバーサル対応」を目指しています。

情報から誰一人取り残されない」を目指すOHKの思い等について、OHK アナウンサー篠田吉央さんにインタビューしました。

情報から誰一人取り残されない社会の実現を目指しコンテストへ

手話で会話
OHKが「Mobility for ALL」に応募したきっかけは何ですか?

篠田(敬称略)
OHKで手話放送が始まったのは、約30年前に聴覚障がい者を取材した際、「番組内容を障がい者本人にも見てもらいたい」と思ったのがきっかけでした。それから毎月1回のコーナー「手話が語る福祉」が始まったんです。

その根底には、テレビ局として日々情報を伝達する中で、実践者として情報のバリアフリー化を進めたいという思いがありました。

今ではSDGsともいわれますが、OHKでは30年前から取り組んでいたといえます。

手話放送

実は手話放送に取り組んでいることは、テレビ局にとっても学びになっているんです。OHKでは聴覚障がい者を交えた「OHK手話放送委員会」を毎月開催し、瞬間瞬間に情報を伝えなくてはいけないテレビだからこその手話表現を当事者と検討していますが、一方通行になりがちな放送において、当事者の声が聞けるのは貴重な機会です。

また手話や福祉に留まらず、全ての人に伝わりやすい番組づくりを考えるきっかけにもなっています。

とくに喜ばれる情報が、エンターテインメントです。モータースポーツはエンターテインメント性が高く、バリアフリー化はすごく重要なことだと思っていました。

聴覚障がい者は、昔であれば取得できなかった運転免許を取得できるようになっています。だから、車はより身近なものになっていますし、運転するだけでなく、モータースポーツの楽しさも知ってほしいんです。移動手段としての車だけでなく、社会参加の証としても車の存在は重要なんです。

「Mobility for ALL」の取り組みは、手話を言語として生きている人達のことを、私達は忘れていません、というメッセージだと思います。

それは私達が約30年間取り組んできたこととリンクしているので、「このプロジェクトはやらなきゃ駄目なことなんだ」と感じ、応募することにしました。

手話放送の経験があったからこそ生まれたコンテストで実証するアイディア

手話実況
実証するアイディア、ユニバーサル実況について教えてください。

篠田
モータースポーツが好きな人や聴覚障がいがある仲間に聞いてみると、まずは、リアルタイムに楽しめることが大事と言われたんです。それでリアルタイムで情報を聞けるようにしたいな。

そうだ、手話実況をつけようと

聴覚障がい者のために簡単な手話実況をするのではなくて、レースの興奮や駆け引きを伝える通常のスポーツ実況を手話で表現したい。それを表現するために2段階通訳になっていて、まずはアナウンサーのレース実況を、健常者の手話通訳者が手話で表現します。

それを手話実況を担当する聴覚障がい者の手話通訳者が読み取り、自分で感じたレースの様子を組み合わせ画面上ワイプの中で手話をします。聴覚障がい者が自ら手話実況するのが今回の取り組みのポイントです。

QRコードによる遠隔手話通訳システムとはどのようなものですか?

篠田
モータースポーツ観戦には、レース会場までの旅行的な移動の楽しさがあります。

湯郷温泉

今回は会場が岡山国際サーキット、湯郷温泉(ゆのごうおんせん)の近くです。例えば、「この温泉はこんな効能があります」等の説明を聞いたら楽しみが増しますよね。

そんな話を聞くためのシステムが遠隔手話通訳なんです。

別の場所にいる通訳者にスマートフォンの画面上を経由して通訳してもらうシステムを作り、リアルタイムに会話をしてもらうんです。

QRコードを読み取るとすぐに遠隔手話通訳の画面に飛ぶようにしようと考えています。

双方向にコミュニケーションを取ることが大事だと思っていまして、ICTを使った双方向のやりとりを取り入れたいなと思っていました。全国でも珍しいことなんですが、OHKはテレビ放送におけるアクセシビリティの向上を目指して慶應義塾大学SFC研究所と共同研究していて、そこでの学びを今回活用しました。

また、先ほども紹介した岡山放送が独自に開発している「シュワQ」を使って、例えば美作市のよさを岡山放送の持ってる映像とともに伝えられるようにしたいと。あとは、サーキットの説明も伝えたいと思っています。

備前焼を使ったサーキット体験を、なぜ取り入れようと?

篠田
岡山県を代表する伝統工芸が備前焼です。岡山のことを知ってもらうために、今回のプロジェクトにどうしても入れたいと思っていました。

視覚障がい者に、「コーナーの角度や勾配を感じてもらいたい」とコースを再現することにしたのですが、実際に備前焼作家の方と一緒にコースを歩いてみて、アスファルトの感触が備前焼にとても似ているということで思わぬ効果もありました。

障がい者だけでなく多くの人に、サーキットを触って感じてほしいと思っています。

10月15日・16日、岡山国際サーキットのレースが実証の場になりますが、どのようなイメージになりますか?

篠田
手話実況は、観客席にいながら自分達のスマートフォンやタブレット端末で見てもらおうと思います。会場にQRコードを置いているので、シュワQも体験してもらえます。

備前焼のサーキットも置いておくので、触ってサーキットのコースを体感してほしいです。

レース会場に足を運べる方、それからリモート等で参加する方に向けてメッセージをお願いします。

篠田
障がい者と健常者、お互いが今までとは違った楽しみ方を感じると、より理解が深まることがあるでしょう。ですから特別なことではなく誰もが普通に楽しめる環境を作っていきたいと思います。

また、取り組み方法とかソリューションによって障がい者の方も普通にモータースポーツを楽しむことができると考えていますし、多くの人を魅了するモータースポーツって面白いんだっていうのを、サーキットで普通に感じてもらえたらいいなと思います。

おわりに

2020年に内閣府のユニバーサルデザイン推進功労者表彰で「優秀賞」を受賞し、2022年にはバリアフリーのゼロ・プロジェクトの国際賞「ゼロ・プロジェクト・アワード2022」を受賞等、手話放送の功績が注目されているOHK。

「情報から誰一人取り残されない」社会の実現を目指し、これから飛び込もうとしているのがモータースポーツの世界です。

手話放送の経験と各方面との繋がりを力に、障がい者も健常者も分け隔てなく当たり前にいろいろな情報を得、楽しめる社会の実現を目指すOHK、そして篠田さんの思いに触れ、その社会がやってくるのはそう遠くないのではないかと感じました。

岡山国際サーキットday2

当サイトについて

トヨタ・モビリティ基金 アイデアコンテスト
「Make a Move PROJECT」の活動報告サイト

当サイトは、トヨタ・モビリティ基金が開催する「もっといいモビリティ社会」をつくるアイデアコンテスト「Make a Move PROJECT」の活動報告を配信する特設サイトです。

このプロジェクトをシェア