バリアフリーをサーキットにも!小さなトレーラーハウスが目指す「誰でも、どこへでも、外出できる社会」

車とmobilecube

2016年度の調査によると、日本にはおよそ430万人の身体障がい者がいます。そのうちおよそ200万人が肢体に不自由があり、車いすを利用する人も多くいます。

そんな車いすユーザーの困りごとのひとつが、トイレです。

イベント時に設けられる仮設トイレには、障がい者用のものがほとんどないこれでは、車いすユーザーはそもそもイベントに出かけられないかもしれない

そう思った株式会社アーキネット代表の織山和久(おりやま かずひさ)さんの目の前には、開発中のトレーラーハウス mobilecube(モバイルキューブ) がありました。

「誰もが自由に移動し、自分らしく生きられる世界」を実現するためのMobility for ALL。

車いすユーザーのトイレ問題を解消し、外出の可能性を広げるための試みが始まりました。

障がいのある人や被災者のトイレ問題とは

仮設トイレ

2006年に施行されたバリアフリー法により、駅や空港等の旅客施設や建築物には、多目的トイレが設置されるようになってきました。しかし、サーキットや野外の音楽イベント等の際に置かれる仮設トイレには、まだまだ多目的トイレが少ないのが現状です。

車いすユーザーにとって、外出先にトイレがあるかどうかは大きな問題です。トイレに困る場合は、外出そのものを諦めざるを得ません。そのため、一般には車いすユーザーが外出先でトイレに困っているという問題すら、認識されていないのです。

実際、街なかやイベント会場に、車いすユーザーがどれだけいるでしょうか。筆者は、ほとんど見かけたことがない、と感じています。

しかし外出先にトイレがあれば、車いすユーザーも出かけることができます。サーキットやイベント会場等で様々な体験ができ、人生の楽しみが広がるのです。

また、被災地でもトイレは大きな問題です。 

避難所では、多くのトイレを確保できないこともよくあります。トイレにできるだけ行かずにすむようにと、水分を控えて体調を崩す人も少なくありません。

仮設トイレの汚水処理も大変です。一般的な仮設トイレでは、タンクに汚水を溜めてバキュームカーで汲み取ったり、1回ずつ汚物を袋に入れて捨てたりしています。

トレーラーハウス mobilecubeとは

mobilecube
mobilecube

住宅づくりを専門とする株式会社アーキネットでは「移動可能な宿泊場所」として、小型のトレーラーハウス、mobilecube(以下、キューブ)を開発中です。

こだわったのは、普通免許で牽引できるようにすること。

道路交通法上、750kgを超える車両を牽引するには「牽引免許」が必要です。

しかし、それ以下の重量の車両であれば、普通免許でどこへでも引っ張っていけます。

はじめに想定していた利用者は、森の保全に関わる人や、森でのアクティビティを楽しみたい人達でした。宿泊施設のない場所でもしばらく過ごせるようにと、キューブには、生活に必要な電気やガス、水、トイレ等も全て揃えています。

キューブは、車いすユーザーの行動範囲を広げる可能性も秘めています。このキューブと車があれば、外出時のトイレや泊まる場所を気にすることなく、今まで行けなかったところへ出かけることができるのです。

キューブには、太陽光発電と蓄電池を搭載しています。この電気で空調を動かし、快適な室内温度を維持。生活に欠かせない水は、濾過して再利用する循環水浄化システムを採用しました。

中でも注目したいのは、ノルウェー製の燃焼式トイレです。プロパンガスを使って汚物の水分を蒸発させ、わずか10分ほどで炭化させてしまいます。

一般的なトレーラーハウスやキャンピングカーのトイレでは、汚水をタンクに溜めて、キャンプ場や道の駅等にある「ダンプステーション」で処理します。しかし、燃焼式トイレではこれらが一切不要で衛生的。

キューブのサイズはおよそ2.2m平方です。この中に、空調や冷蔵庫、トイレ、流し台等が収まっています。大人が寝るのに十分ながら、車のサイドミラーを邪魔しないサイズです。

内部のつくりを変えれば、イベント用や災害時のトイレとして使えます。車いすユーザーや高齢者等、外出が困難だった人の生活を変えられる可能性を秘めているのです。

mobilecube を使った実証実験の内容

(イメージ画像)

10月15日・16日の岡山国際サーキットでの実証実験では、キューブ1台を仮設多目的トイレとして使用します。今回はシャーシからキューブを下ろし、平らな地面に置いたスタイルで実験する予定です。サーキットへの乗り入れが円滑にできるか、どのような位置に置くのが利用しやすいか、キューブが十分に機能するか等を検証します。

車いすユーザーもサーキットに行ける、フィールドが広がる、そんなきっかけになれば。そう語る株式会社アーキネット代表の織山和久さんに、詳しくお話を聞きました。

出発点は、森

mobilecube
そもそも、キューブは森で宿泊するためにつくられたのですね。

織山(敬称略)
そうです。私達アーキネットは、都市のあり方を考え、住宅を提供する会社です。都市の生活を守るためには、森の保全をする必要があります。

例えばスイスでは、国民の半分くらいが毎週森に行くそうです。森に行って、リフレッシュしてまた仕事をする。

けれども、今、日本で森へ行こうと思っても、そもそも泊まる場所がありません。それなら、森で活動をする人が泊まるための部屋をつくろうと思ったのがきっかけです。

私達がつくるからには、快適に住める部屋にしたいですし、大事に長く使ってもらえるものにしたいと思いました。耐久性や耐候性のあるアルミパネルを使って、内部はシンプルかつ繊細に。

オフグリッド(電線や水道管等、ライフラインが繋がっていない状態)にすれば、どこにでも行けるので、太陽光発電や水浄化システムを組み込み、トイレも燃焼式にしました。

その過程で、これは災害やイベントの際の仮設トイレとして、またトイレや宿泊の問題で外出しづらい車いすユーザーにも、使ってもらえると思ったんです。

キューブは普通免許でも牽引できるので、例えば市の職員が運ぶことも可能ですし、燃焼式トイレだからタンクの汚水の処理をする必要もありません。移動が簡単だからこそ、いろいろな使い方ができます

株式会社アーキネット代表の織山和久さん

自分で運転して、自分でどこへでも行ける、泊まれる未来を目指して

車いすユーザーが使いやすいように、内部のつくりを変えることもできるのですか。

織山
もちろんです。手すりをつけたり、トイレの広さや向きを変えたりして、使いやすく整えます。

このキューブがあれば、トイレや泊まる場所に困るからと外出を控えていた車いすユーザーも安心して外出できる、そういうものにしていきたいと思っています。

車いすユーザーが利用するには、高さが問題になってくるかと思いますが。

織山
そうですね。シャーシに乗った状態で高さが70cmほどあります。スロープだと15mくらいのものが必要なので、リフトを考えています。

ただ電動リフトが100kgぐらいあり、もう少し軽量化しないと載せられない。キューブ本体の軽量化とリフト自体の軽量化、あるいは福祉車両のリフトを利用できるようにする等、多方面から検討しているところです。

mobilecube
リフトの問題がクリアできれば、車いすユーザーの外出の可能性が、大きく広がりますね。

織山
車いすユーザーの中には、自分で車を運転する人も大勢います。そんな人達にこそ、キューブを使ってほしい。車とキューブがあれば、どこへでも行って、どこででも泊まれるようになります。そうすれば、フィールドが広がります。

サーキットへも、森へも、どこへでも。

おわりに

織山さんのお話を聞きながら、初めて自分の車を手に入れたときのことを思い出しました。これでどこへでも行ける。ワクワクしながら、車の鍵を握りしめていました。

車いすユーザーや高齢者等、公共の交通機関や宿泊施設を使いづらい人達がいます。しかし、車とキューブを組み合わせれば、行けるところが広がります。

誰でも、どこへでも、自由に外出できる社会。小さなキューブには、夢がたっぷりと詰まっているのです。

すぐ創る課_アイキャッチ

当サイトについて

トヨタ・モビリティ基金 アイデアコンテスト
「Make a Move PROJECT」の活動報告サイト

当サイトは、トヨタ・モビリティ基金が開催する「もっといいモビリティ社会」をつくるアイデアコンテスト「Make a Move PROJECT」の活動報告を配信する特設サイトです。

このプロジェクトをシェア