訪問看護師が整える 障がいのある方とその家族が安心して観戦できる環境づくり

看護の様子
左が株式会社Cone・Xi 代表の高木大地さん

株式会社Cone・Xi(コネクシー)は、看護師である高木大地(たかぎ だいち)さんが2017年に設立しました。岡山県岡山市を拠点に、潜在看護師・介護士の復職支援ツール「chokowa(チョコワ)」の開発・提供等を行っています。

看護師の作業コストを削減し、隙間時間等を有効活用できる働き方を提供することで、患者の時間軸に寄り沿える看護の世界を実現しようと、訪問看護・介護業界の課題をIT活用によって見える化し、業務の効率化や働きやすい環境づくりに取り組んできました。

Mobility for ALLでは、移動がハードルとなっている障がいのある方のご自宅から、会場となる岡山国際サーキットまでの移動を稼働していない福祉車両でサポート。空き車両の利用による資源活用、そして訪問看護師が同行することで、不安なく移動ができ、会場で最高の体験をしてもらうという実証実験です。

プロジェクトの内容

運転イメージ

稼働していないデイサービス等の福祉車両を活用し、障がい(身体・知的・精神障害いずれも想定)を持つ利用者と訪問看護師との乗合いでの移動支援を企画しました。

10月16日、利用者の自宅から会場となる岡山国際サーキットまでを送迎し、その間の移動に加え、会場での観戦にも看護師が同行します。

利用者の特性に合わせて訪問看護師と車両をマッチングすることで、目が見えない、車いす移動が必要、たんの吸引が必要等、様々な特性があっても安心して移動でき、観戦を楽しむことができるのです。

また、稼働していないデイサービス等の福祉車両を活用することで売上に貢献するとともに、訪問看護師が乗合いで移動を支援することで、環境にも配慮した脱炭素のモデル構築にも繋がります。

当日の動き

車両

当日は、2パターンに分け会場まで移動します。

  1. 事業所 → 看護師と利用者を岡山駅周辺に迎えに行く → 会場
  2. 事業所 → 看護師乗車 → 利用者の自宅へ迎えに行く → 会場

利用者はスマートフォンやタブレットに専用のアプリを登録し、事前に到着時間を設定しているため、到着予想等の案内を受信することができます。

岡山市から岡山国際サーキットまで1時間から1時間半ほどの時間がかかりますが、訪問看護師が同乗することで体調不良時等も迅速に対応が可能となります。

会場で過ごす時間は、2時間~2時間半。その間、体調に不安があってもレースが楽しめるよう、急変時の対応等も視野に入れ、訪問看護師が利用者に寄り添います。

帰りも自宅までの送迎に看護師が同乗します。

活用されるテクノロジー

株式会社Cone・Xiと一般社団法人ソーシャルアクション機構がコラボレーションしてプロジェクトが進んでいます。

看護師とのマッチングは、潜在看護師・介護士の復職支援ツール「chokowa」を活用します。chokowaを開発する株式会社Cone・Xiが、所有する看護師のスキル等のデータベースを使って実現していきます。

車両のルート設定については、一般社団法人ソーシャルアクション機構(群馬県前橋市)が開発した「福祉Mover」を活用します。デイサービスの送迎を効率よく巡回できるよう、どんな順番で何時ごろ迎えに行くのか計画を立てられるシステムです。

プロジェクトの背景には、「訪問看護師の価値を向上し、よりよい看護が提供できる基盤をつくる」という思いと展望があります。

今回の取り組みが慢性的な看護師の人材不足解消へのアプローチに繋がると期待を寄せる、株式会社Cone・Xi代表の高木大地さんにお話をききました。

患者の時間軸に寄り添った看護を提供したい

看護の様子
左が株式会社Cone・Xi 代表の高木大地さん

「Mobility for ALL」に応募したきっかけは何ですか?

高木(敬称略)
モータースポーツを観戦しに行きたいと思っても、移動や会場に長時間いることに不安があると、大きなハードルになってしまいます。私達のサービスを活用して、利用者の方には移動の安心と、会場での滞在時間の安心を感じていただけると考えました。

訪問看護師はふだん利用者の方と一緒にいる時間が長いことから、コミュニケーション能力が高く、全般的なケアができると考えています。

また当社は元々、「訪問看護師の価値を向上したい」という考えで事業を行っています。そのため移動支援に加え、慢性的な看護師の人材不足の解消も視野に入れて応募しました。

看護師の同乗の部分を私達のサービス「chokowa」が担い、当日の配車システムの部分は協働の一般社団法人ソーシャルアクション機構さんが運用している「福祉Mover」が担っています。

「福祉Mover」としては岡山での連携先がないというところで、一般社団法人ソーシャルアクション機構さんの課題感とマッチし、実現しました。

「chokowa」はどういった経緯で誕生したのでしょう。

高木
私は今32歳なんですが、21歳で看護師の資格を取り病院で働きました。元々看護師は、患者のケアをする立場。ですが実際に病院で働いてみて、病院の時間軸で動いていると感じました。具体的にいえば、空腹ではない状態でも食事の時間になり、食べきれなかったら回収される、排泄介助の際もオシメ交換の時間だからという理由で、オシメを外される等です。

私は自身の看護観から、患者の方の時間軸に寄り添った看護を提供していくということを、元々はやりたかったんです。「利用者の時間軸に寄り添える」という部分で着目したのが、基本的に自宅に赴き看護を提供する訪問看護でした。

ただ、訪問看護師になって自分の看護観に寄り添えるかと思いましたが、なかなか難しかったです。訪問看護の現場で一番課題だと感じるのが、移動の問題でした。

自分の車や自転車で10分~30分ほどかけて利用者宅から利用者宅へ向かったり、一度事務所に寄らないといけなかったりと移動の時間が多いんです。

訪問看護師のスケジュール
訪問看護師のスケジュールのイメージ図

移動にかかる時間が効率的になり短縮できれば、もっとたくさんの利用者の方達とも寄り添えます。

患者の方の時間軸にもっと寄り添えるサービスをつくりたい、そして訪問看護師の作業コストを削減できると、訪問看護業界全体がより良くなっていくと考えました。

また、今、潜在看護師が全国に約72万人いるといわれています。看護師として働ける人が増えたら、より患者・利用者の方の時間軸に沿った看護が提供できるでしょう。こういった思いから会社を設立し、「chokowa」を開発しました。

chocowaイメージ図
 chokowaの仕組み

細やかなマッチングだからこそ提供できる「安心」

車両
車両や訪問看護師のマッチングはどのように行われるのですか

高木
プロジェクトでは利用者の方の特性に合わせて、車両はもちろん訪問看護師の方もマッチングできるよう配慮しています。

車両については、車いすが乗れるリフトつきの車両が必要か、グループや友達同士で参加される方々と同乗できるかといった調整を当日までに行います。

訪問看護師とのマッチングについては、利用者の方の特性に合わせた看護技術に加え、看護を担当する方の趣味も確認しています。例えばスポーツが好きな人同士でできるだけマッチングすると、車内での会話がもしかしたら盛り上がるかもしれません。

訪問看護では基本的に、自宅に赴きケアにあたってるので、病院の時間軸ではなく利用者の方の時間軸に寄り添うことに慣れている方が多いです。

移動ができない、耳が聴こえない等 様々な不自由さを持っている方に対し、普段から1時間ほどケアにあたって対話をしていることから、コミュニケーション能力の高い看護師が揃っているという認識が私達の中にはあります。

訪問看護師が同乗することは、利用者や家族の大きな安心感に繋がりますね

高木
プロジェクトを進める中で、看護師からも「参加したい」という声や、利用者からも「プロジェクトに参加させてもらえないか」という問い合わせが増えきました。

やはり看護師がいることで安心して移動ができ、移動手段がないからと諦めることがなく感動を体験してもらえる体制をつくっていけるのではないかと考えています。看護師がいる価値を見出していきたいです。

訪問看護師の方は、訪問以外のこういった旅行やイベントへの参加には積極的なのですか

高木
同行することで、利用者の方を旅行に連れて行ってあげたいと思っている訪問看護師は多いと思いますし、旅行やイベントについては、訪問看護事業所ごとで企画をすることもあります。

ただ基本的に訪問看護は、実際のケアを提供した時間に対して国から報酬がもらえるというビジネスモデルです。なので「同行してほしい」という意向が利用者の方にあったとしても、旅行の支援という理由では、訪問看護師は報酬をもらえないことが多いんです。

中には「同行することで安心して旅行に行ってほしいけど」、と葛藤がありながら実現できなかった訪問看護師の方もいます。

今回、私達から訪問看護師の方達へ報酬をお支払いするので、「だったらその時間枠を空けて、既存の利用者さんの同行することで、普段諦めていたことを体験させてあげよう」と、協力を決断してくださった事業者の方もいらっしゃいます。

看護業界の人材不足を解決し、質の高い看護を提供できる社会へ

看護の様子
プロジェクトで利用者の方に感じてほしいことを教えてください。

高木
本来であれば行けなかった場所で、今回のソリューションを使うことで体験し感動を得ていただけたら、一番いいと思います。

ひとつ道筋を立てれば実現するという経験が、生きる意欲にもなるでしょう。「また行きたい」となれば、未来への活力にもなっていくのではと感じています。

訪問看護師の方に感じてほしいことはどんなことですか

高木
さきほど、潜在看護師が全国に約72万人いるとお伝えしました。

勤務先への通勤や子どもの送り迎えが両立できるか自信がなかったり、病院で働くのは難しかったり、そういった事情で出産・育児を機に現場を離れ、そしてそのまま3年ぐらい経過してしまうと、自分の技術に自信がなくなり復帰ができなくなるという方がとても多いんです。

今回のようにスポットで看護に関わってもらうことで看護スキルを思い出してもらい、「ありがとう」と言われることで自身の看護観や、看護師としての働きがいを取り戻すきっかけになればと思います。

それが潜在看護師の雇用にも繋がるでしょう。そして看護師の人材不足が解決できれば、在宅利用者の方や病院の患者の方の安心に繋がっていくのではないでしょうか。

看護の様子
今後の構想を教えてください

高木
最終的な私の目標としては、看護師個人の価値を証明し、空き時間等を有効活用できる仕組みをつくることです。そのためにはスポットバイトができるようなイベントの企画も必要ですし、看護技術等の教育も必要です。

様々な理由で看護師として働くことを諦めないといけない人をたくさん見てきました。無理せず看護師として働ける環境をつくり、看護業界の人材不足を解決していきたいと思っています。

「潜在看護師になってしまったから働けない」という考え方ではなく、潜在看護師が一歩踏み出し働く意義を私達が見出していくことが大切だと感じています。

看護師の平均年収はまだまだ低いと思っているので、こういったスポットでの看護の仕事等、空き時間を活用して稼げる仕組みをつくり、看護師という職の価値を向上していきたいです。

報酬がアップすれば患者の方や在宅療養者の方に対し、ストレスなく接することができると信じているので、年収を上げていくようなサービスにも取り組んでいきたいと思っています。

病院の看護師も、訪問看護師も、働く環境を含めて「すごくいい業界だよね」となって、しっかりPRしていくことで業界に人が流れてくる形を構築していきたいです。

おわりに

取材の中で高木さんが、「『ありがとう』言われると、心に響くものです。働きたいというきっかけはそういった会話から生まれてくるのだと思います」と話していたことが印象的でした。

今回のプロジェクトで障がいを持つ方と訪問看護師の方とが接点を持つ中、それぞれが未来に向けて希望を持つのではないでしょうか。

障がいを持つ方にとっても、訪問看護師の方にとっても、生きがいを見つけ、心地よく生きられる社会への一歩になると感じました。

岡山国際サーキットday2

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