光と同期し音が見える「光るTシャツ」はモータースポーツを楽しむ新しい観戦スタイル

音で情報を伝える「音響通信技術」を開発したエヴィクサー株式会社(以下、Evixar)は、音の信号処理に基づくソフトウェア、ネットワーク関連技術の研究開発に取り組んでいる会社です。

音響通信技術をもとにしてEvixarが開発した音響連動ペンライトは、2021年11月「名古屋グランパス × スタートアップピッチ2021 inメッセナゴヤ」で最優秀賞を受賞し、名古屋グランパスの公式グッズとして販売されています。

音響連動ペンライトを使うのは、健常者だけではなく、聴覚障がい者も、そして実は視覚障がい者もペンライトの光を感じ一緒に楽しんでいるということを、スポーツ観戦やミュージカル鑑賞等、音響連動ペンライトが活躍している様々な現場でのヒアリングで知ったそうです。

音と光を同期する技術は、モータースポーツの楽しみを障がい者の皆さんへ届けることができると考えたEvixarは、「光るTシャツ」の開発に取り組み始めました。

音と光と振動が連動する「共感グッズ for ALL」とは

光るTシャツ
光るTシャツ

Evixarは、2014年頃から視覚障がい者向け「スマホで聴く音声ガイド」、聴覚障がい者向け「メガネで見る字幕ガイド字幕メガネ)」の開発を始めました。

これらの鑑賞スタイル「HELLO! MOVIE方式」はやがて業界標準となり、映画館のバリアフリー化を推し進めることに成功。Evixarは健常者と障がい者が同じ空間で映画を楽しむ環境を提供しています。

その後開発した音響連動ペンライトを視覚障がい者が使っている姿を見て、この技術はモータースポーツの分野でも使えるのではないかと考え「光るTシャツ振動するリストバンド」のプロジェクトを始めました。

健常者だけではなく視覚障がい者、聴覚障がい者にもモータースポーツの楽しさを伝える「共感グッズ for ALL」は、Evixarの音響通信技術をいろいろな状況の人達に役立てたいという想いを結集したプロジェクトです。

健常者と同じ場所で同じ時間に楽しむ「共感グッズ for ALL」

聴覚障がい者、視覚障がい者に向けた特別な映画上映会ではなく、映画館で上映されている作品を障がい者、健常者の区別なく同じ映画館、同じ席で楽しめることが「HELLO! MOVIE方式」のコンセプト。

そのコンセプトをモータースポーツの世界に当てはめ、だれもが楽しめるように開発されているのが「共感グッズ for ALL」です。

共感グッズの「光るTシャツ・振動するリストバンド」は、視覚障がい者、聴覚障がい者がレース会場で激走しているエンジン音を体感し、モータースポーツの楽しさを味わってもらうために考えられたものです。

健常者でも楽しめるものになっているそうなので、レース会場のどこにいてもみんなで盛りあがることができるでしょう。

コロナ禍の状況で考えついた「共感の同期」エンジン

このプロジェクトを表す表現として、「共感の同期」エンジンをあげたEvixar 代表取締役社長 CEO 瀧川淳(たきがわ あつし)さんに、「共感グッズ for ALL」についてインタビューしました。

「共感グッズ for ALL」のプロジェクトを立ち上げたきっかけについて聞かせてください。

瀧川(敬称略)
2014年ぐらいから「全国映画館でのバリアフリー上映」を提案し、私達の技術を使ったサービスを大手の映画会社中心に取り組んできたんですね。

「全国映画館でのバリアフリー上映」のコンセプトは、健常者・障がい者の区別なく自分の見たい映画を公開初日から見られることです。

障がい者用の特別な上映会を開くのではなく、健常者が見ている横でARグラス(スマートグラス)をかけて字幕を見る「メガネで見る字幕ガイド」、片耳イヤホンで音声解説を聞く「スマホで聴く音声ガイド」を使うことが可能になったので、全国一斉に全国の映画館でのバリアフリー上映をずっとやってきました。

ARグラスを使うメガネで見る字幕ガイド
ARグラスを使うメガネで見る字幕ガイド

スマホで聴く音声ガイド、メガネで見る字幕ガイドは、これまで邦画400本ぐらいの採用をいただいて社会実装できたと感じています。

そうすると、これを他の分野にも応用したいっていう率直な思いが出てきたんです。障がい者の方が健常者と一緒に同じように体験できることは、大事なコンセプトだと考えています。

Evixarの技術と経験をモータースポーツにどう応用できると考えましたか?

瀧川
今回はモータースポーツなので、私達の技術で、映画館同様に会場に行ったからこそ体験できるレーシングカーのスピード感とか音を体感してもらいたいと。

視覚障がい者の中でも全盲の方は、1割ぐらいといわれています。色が変わったってことを感じられる視覚障がい者の皆さんが実は多いんです。

つまびらかな情報を得られないときでも、光や振動で共感が同期されると何か一歩進むのではないかと思っています。

だから私達のプロジェクトは「共感の同期」エンジン。いろいろなアプローチが考えられると思うんですけど、私達は光や振動等のすごくシンプルなことでチャレンジしたいと考えました。

また、新型コロナウイルス感染症が拡大したこともきっかけとして大きいですね。コロナ禍になって、ライブもオンライン配信とかリモート観戦が多くなりました。

テレビの前で同じ体験を共感するためにはどうすればよいかと考えたときに、音だなと。音だと届きますよね、テレビの前で見ている人に。音で共感の同期ができる!と思って。

言葉に頼らない直感的なものも大事だという気づきもあって、モータースポーツに私達の技術と経験を応用するなら、多くの人が使えるグッズにしようと考えました。それが「光るTシャツ・振動するリストバンド」です。

「共感の同期」エンジンとしての光るTシャツと振動するリストバンド

「光るTシャツ」とはどのようなものですか。

瀧川
「光るTシャツ」には、着脱式のLEDがついています。
Tシャツの脇にあるマイク内蔵のセンサーが、サーキットの音の大きさに反応してLEDの色が変わるシステムです。

奥が音響連動ペンライトで中央が光るTシャツ-光っていない状態-
奥が音響連動ペンライトで中央が光るTシャツ-光っていない状態-
光るTシャツが音楽に合わせてオレンジ色に光っている状態
光るTシャツが音楽に合わせてオレンジ色に光っている状態

また、ある特定の音楽を流すと、その音楽のリズムとか曲調によって色が変わったり点滅したりと、音を光で体感し楽しむグッズなんですね。

音響連動ペンライトと同じテクノロジー?

瀧川
はい、半分は同じですね。

音響連動ペンライトは音が大きくなると反応するのではなく、ある特定の曲に反応します。それだけだとレース中に音楽は鳴らないので光りません。

そのためレースで走行する車の音に反応するようにしました。
音の強弱をマイクで拾い、それに連動して光らせる技術を使っています。

点滅する色は何色ですか?

瀧川
音響連動ペンライトとそろえているので現状では14色です。それと高速点滅や蛍点滅やランダムに点滅するパターンを組み合わせています。

輝度は昼間であっても見えるように割と高めにしていますね。

光るTシャツが音楽に合わせて赤く光っている状態
光るTシャツが音楽に合わせて赤く光っている状態

レーシングカーのエンジン音とかに反応させなければならないので、実際にレースの視察に行って音を採取しました。

サーキットで音を採取
サーキットで音を採取

サーキット特有の音を光で再現できればいいなと思って、今調整をしているところです。

「光るTシャツ」に使われている技術はどのようなものですか?

瀧川
学問的に言うと音響の信号処理となります。

音を信号処理しLEDの制御信号に変えることやマイクの特性解析とかマイクのハンドリングも含めて、プロトタイピングを社内で全てやっていて、小さな基盤板で効率的にプロトタイピングしていくところが“ミソ”かなと思っています。

ケーシング設計
ケーシング設計

サーキットの爆音だとマイクが飽和して割れることもありますので、マイクの選定とか、マイクのハンドリングをどうするか等を進めているところですね。

「光るTシャツ」の色とサイズは?

瀧川
実証実験のときは、光がいちばん目立つ黒を用意しています。小さいものから大きいものまでサイズは4種類を準備していますので、実証実験の10月15日・16日は、いろいろな方にフィットするのは大丈夫ではないかと思います。

気になるのは当日の気温です。寒くないといいのですが。

実はTシャツだけではなく法被バージョンも作成しているんですよ。気温によってはこちらもいいかなあと考えていますが、Tシャツでも大丈夫ないい天気になるのを願うのみです。

法被バージョン
法被バージョン
「振動するリストバンド」とはどのようなものですか?

瀧川
手や腕につけていただくリストバンドです。リストバンドについているマイクに入った音のレベルに応じて、バイブレーターが振動するものです。

振動デバイスを腕に装着している様子
振動デバイスを腕に装着している様子

レース中でも振動を伝えるために強い振動を出すようにしていますけど、レースの間ずっと振動していたら意味がないので、レースの様子をどう振動で再現するかに気をつけていますね。

その再現具合は、実証としてお出しできるレベルには達しているかなと思います。

音と光と振動の同期でエンターテインメントの新しい可能性を開く

体感者にどのようなことを「感じて」ほしいですか?

瀧川
事前説明なしで直感的に「おお〜」と言ってもらえるのが一番いいかなと思っています。

長時間レースを見ていると変化が欲しくなったりしますよね。

障がい者の方も同じだと思うので、これらのグッズを身につけて直感的に「おお〜」というのを感じてもらえるようになればいいかな、そのように感じていただけるように仕上げたいなと思います。

「光るTシャツ・振動するリストバンド」が社会にどのような影響をもたらすと考えていますか?

瀧川
音響連動ペンライトの話になりますが、私が結構びっくりしたのは視覚障がい者の方の、音響連動ペンライトの反応がいいんですよね。

ペンライトが楽しいって言ってくれるんです。

他には「色が変わったような気がする」とか「こんなに周りに人がいたんだ」とかも。見えていないけど、光の表現が増えることによって臨場感が伝わるのは、私にとってはまったく新しい気づきだったんですね。

映画も同様にやってきたんですけど、視覚障がい者、聴覚障がい者の方達も毎月新作映画を見るようになるんです。

健常者といっしょの話題についていきたいとか人と共感したいとかの要望を、映画だけではなく、モータースポーツでも提供できればという思いでいます。

プロジェクトの内容でこだわったところは?

瀧川
今回こだわったのは、そこにある音に反応させたいっていうことです。

視覚障がい者の方もいろいろといらっしゃるんですけど、中途視覚障がい者の方は元々の色の記憶があるから赤や青等の色の概念はわかりますよね。

そうではない視覚障がい者の方も、音やリズムに合わせて光が変わる、色が変わると光が変わるという新しい概念が生まれてくるので、それは私達が提供できるエンターテイメントの新しい可能性かなと考えていますね。

健常者の感覚だと、視覚障がい者や聴覚障がい者の方達をひとくくりにしてしまいがちなんですけど、それはやはりエンターテインメント表現としては、もう少しいろいろあるかもしれないなと。

今回とてもいい企画に参加させていただいたので、私達も新しいことにチャレンジできるなと思っています。

「共感グッズ for ALL」を多くの人に届けたい

障がい者の方々だけが何かしなきゃということではなくて、そこにいる全員、障がい者も楽しいし健常者も楽しい環境が理想だと瀧川さんは話します。

「共感グッズ for ALL」とALLがついているのは、誰も取り残すことなく全員が楽しめる環境を実現したいという想いです。

障がい者も健常者も楽しい」、ここにこだわるEvixarは、モータースポーツの新しい楽しみ方を私達に見せてくれるでしょう。

MNIを着た皆さん

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