【実証実験レポート】カーレースの躍動感の共有 ピクシーダストテクノロジーズ・エヴィクサー・Not Impossible

MNIを着た皆さん

10月15日(土)・16日(日)に岡山国際サーキットで「ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook 第6戦 『スーパー耐久レースin岡山』」に合わせて開催された「Mobility for ALL」。一般財団法人トヨタ・モビリティ基金が「移動の可能性を、すべての人に。」をコンセプトに、アイデアやソリューションの社会実装を目指すアイデアコンテストです。

カーレースで盛り上がる客席やイベント会場にて、一次選考を通過した17チームが最終選考に進もうと実証実験を行いました。

中でも、聴覚以外の方法でカーレースの躍動感をどう共有するかにチャレンジしたのが、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社エヴィクサー株式会社Not Impossibleの3チームです。取り組み内容のほか、実証実験を経て得られた気づきや、デバイスを利用したユーザーの声を紹介します。

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社 音を視覚と触覚で感じる「SOUND HUG」

SOUND HUG(サウンドハグ)は、音を光と振動で表現する球体型のデバイスです。抱きかかえることで視覚と触覚(振動)で音を感じることができる仕組みで、コンサート会場等で活用されてきました。モータースポーツ会場に導入するのはMobility for ALLが初めてです。

SOUND HUGを抱える女性

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社のプロジェクト主担当、長谷芳樹(ながたに よしき)さんに話を聞きました。

コンサート会場とモータースポーツ会場の違いはいかがでしょう。

長谷(敬称略)
コンサートでは幅広い周波数レンジを広い、いかに多くの音を振動で表現するかがポイントでした。一方、カーレースでは音の動きをどう表現するかがポイントです。目の前に車が走ったときに音が大きく感じられるよう、2本のマイクを使って調整しました。

爆音ともいえる大きな音をどう振動で表現するかも課題でした。長時間抱えているとストレスになりかねないので、当日も振動を小さく調整しました。

SOUND HUG会場の様子
会場で説明する長谷さん

また、体験した聴覚障がいを持つ方からは、以下のような話を聞くことができました。

  • 体の芯で音を感じます。普段から音は胃のあたりで感じているので、それが増幅しているイメージです。車それぞれで音が違うことが体感できました。回数を重ねて慣れたらもっと、音をリアルにイメージできそうです。
  • 周りが明るすぎて、SOUND HUGの照明の色が見えづらいのが少し残念です。

客席には、白い球体が並び、それだけで目を引きます。気になって立ち止まる通行者に「体験してみますか」と声掛けをしている様子が印象的でした。

SOUND HUG ピクシーダストテクノロジーズ

エヴィクサー株式会社 音が見える「光るTシャツ」

光るTシャツは、首にかけるマイク内蔵のセンサーが音に反応して、Tシャツ(実証実験では法被)に装着された着脱式のLEDが光るという仕組みです。Mobility for ALLでは、レースで走行する車の音に反応する技術を加えました。着脱式LEDは、音の強弱をマイクで拾い、音に連動して全14色に光ります。実証実験では聴覚障がい者だけでなく、視覚障がい者も参加していました。

光るTシャツ_選考
写真右が瀧川さん

エヴィクサー株式会社 代表取締役社長 CEO 瀧川淳(たきがわ あつし)さんに話を聞きました。

使ってもらってどんな気づきがありましたか。

瀧川(敬称略)
もともと聴覚障がいを持つ方を対象に準備してきましたが、一定の色が分かりづらい色覚障がいを持つ方等、視覚障がい者の中でも光の色の変化がわかる方は多いと聞き、実証実験に参加してもらいました。

ケーブルがなく、着用してどこでも行けるのがうれしいという声をもらい、なるほどと思いました。仲間同士で喜ぶ表情を見て、複数人で共感できることの意味が大きいと感じています。

光るTシャツ

体験した聴覚障がいを持つ方からは、以下のような話を聞くことができました。

  • 初めてカーレースを見ました。カーブや直線、場所によって音の臨場感が違うという発見があり、おもしろいです。世界が広がりました。
  • 音響連動ペンライト(同社開発商品)を持って、始めてアイドルのステージを見に行きました。こんなに楽しいと思わなかったです。会場全体を盛り上げるアイドルはすごい!

体験した視覚障がいを持つ方からは、以下のような話を聞くことができました。

  • 色覚障がいを持っていても、光るTシャツのLEDの色の違いがわかりやすかったです。大勢で着ると一斉に色が変化してきれいだと思いました。

若者達が満面の笑みでイベントを楽しんでいるのを見て、その場の感動を仲間と共感できることの大切さを実感しました。

光るTシャツ_ユーザー

Not Impossible ベスト型の振動デバイスで音を体感する「Music Not Impossible」

アメリカから参加したチーム、Not Impossible。ベスト型の振動デバイス「Music Not Impossible」は普段、音楽イベントの会場等で活用されています。メンバーのひとり、ダニエルさんはライブDJでもあります。

リアルな音を振動で身体に伝えるべく、心臓に近い場所に大きい音を伝えたり、皮膚が薄い部分には骨伝導で音を伝えたりと、ベストと手首・足首に24箇所の振動スポットを設けています。モータースポーツ会場でMusic Not Impossibleを使ってもらうのは、Mobility for ALLが初めてです。

Notimpossible
写真右がダニエルさん

Not Impossibleのダニエル・ベルカーさんに話を聞きました。

モータースポーツ会場での導入に当たり、工夫した部分はどこですか。

ダニエル(敬称略)
デバイスは2018年に開発したものですが、ソフトウェアは新しく作りました。マイクの設定と振動で、右から左へ駆け抜ける車の疾走感をどう表現するかに苦戦しました。車の音以外に、会場の盛り上がり等もできるだけリアルに体感できるようにしました。

アメリカではどのようにこの商品を展開しているのですか。(選考委員より)

ダニエル
BtoBtoCでイベント開催者に提供し、イベント参加者全員が装着する形です。

MNI装着シーン

また、体験した方からは、以下のような話を聞くことができました。

  • 視覚に障がいがあっても、たくさんの車が通るときにすごい迫力を感じます。周囲と同じように楽しんでいるという一体感が生まれると思います。
  • 音を拾う精度が高く驚きました。立体的な音の強弱を感じました。

実証実験ではレースのほか、音楽に合わせた振動体験もありました。ベストを着用して縦揺れする皆さんが印象的でした。

MNIを着た皆さん
Music Not Impossible

おわりに

聴覚を超えたカーレースの躍動感の共有にチャレンジした3チーム、それぞれの工夫が見られました。共通するのは、カーレースならではの音の表現にこだわった点です。

一緒に体験し、興奮を共有できるからこそ、絆が強くなる。その喜びはすべての人にとってかけがえのないものであるはずだと感じました。

Mobility for ALL 実証動画

実証実験の様子を、動画でも紹介します。

ピクシーダストテクノロジーズ株式会社

エヴィクサー株式会社

Not Impossible

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