eスポーツでモビリティの可能性のその先へ。誰もがドライバーになれる世界に向けた挑戦

ePARA_CARNIVAL

本気で遊べば、明日は変わる

株式会社ePARA(以下、ePARA)の核であり、関わる人 全てが目指す場所を指した言葉です。
ePARAは2016年11月、代表の加藤大貴(かとう だいき)さんによって設立されました。

障がいのある方が、自分らしく、やりがいを持って社会参加できるための支援として、ePARAが展開する事業は5つあります。
そのうちのひとつがeスポーツイベント事業。

eスポーツを自分らしく生きるツールとして進化を続けるePARAが、モータースポーツの世界に参戦し、新たな気づき、可能性を探るべく、動き始めています。

eスポーツで「誰一人取り残されない社会」へ

本プロジェクトでePARAが目指すのは、eスポーツを活用して、障がいのある方自身がモータースポーツの世界を疑似体験し、観戦を楽しむことです。

参加者はそれぞれが持つ障がいも含め、居住地や家族構成、モータースポーツの理解度、関心度もばらばらです。

ひとり一人の視点を大事にしつつ、当事者としてモータースポーツを楽しむためにePARAが用意した鍵は、「eスポーツ」と「」でした。

ePARAが培ってきたもの

eスポーツの強みは、高い再現性でリアルスポーツを体感できる点にあります。
eスポーツの中でも特に、年齢・性別・時間・場所・障がいの有無を問わずに参加できる環境のもとで行われるものは、バリアフリーeスポーツと呼ばれ、ePARAはパイオニア的存在です。

心眼CUPに出場する北村氏
心眼CUPに出場する北村さん

ePARA内には、Fortia(フォルティア)と呼ばれる障がいのある方によって構成されるプロジェクトチームが存在します。

Fortiaは全部で6ユニット。視覚障がい者によるBlind Fortia(ブラインドフォルティア)、聴覚障がい者によるプレイを応援するDeaf Fortia(デフフォルティア)等、各ユニットがそれぞれの障がい特性をいかしてeスポーツの可能性を追求するべく、様々な挑戦をしています。
全盲プレイヤーによる格闘技大会「心眼CUP」や、車いすeサッカーイレブンの結成等がその例です。

障がいを超えるeスポーツの力とインターネットの潜在力の高さに裏打ちされた、可能性を生み出す力が、ePARAの武器といえます。

eスポーツを通じてモータースポーツの世界を疑似体験する

モータースポーツの世界でも、Fortiaのメンバーが挑戦を開始しました
観戦するだけに留まらず、レーシングカーの運転が体験できるのはeスポーツだからこそ。失敗しても、何度でも練習できるのも、eスポーツの強みです。

実際に体験する中で得られるのは、操作性や技術面の向上といった面だけではありません。
障がいゆえに、運転から距離を置かざるを得ない方や、モータースポーツ自体に関心が薄い方がeスポーツを通じてレースに触れることで、新たな気づきを得られるのです。

ePARAでは、本プロジェクトの参加者をドライバーと呼びます。そこには、ひとり一人が当事者であり、モーターレースを楽しんでほしいという思いが込められています。

準備に時間と労力と想いを注ぐ

もう一つの鍵は、「」です。

本プロジェクトでは、準備段階から観戦当日、観戦後までの行程を旅に見立て、参加者による旅コミュニティを構成しました。
日ごろ受け身になりがちな移動や準備も含め、旅をする当事者として、一緒に旅をするコミュニティの一員としてモータースポーツを楽しむためです。

クロスラインとは

旅に見立てることでいろいろな課題を抱えた移動すら、トラブルも含めて旅の準備期間として楽しんでしまうのがePARAドライバーのスタイル。

すでに旅は始まっています。

クロスライン ~ ボクらは違いと旅をする

本プロジェクトリーダーの細貝輝夫(ほそがい てるお)さん、社員でありドライバーである北村直也(きたむら なおや)さん、畠山駿也(はたけやま しゅんや)さんにお話を聞きました。

北村さんは先天的な視覚障がいがあり、畠山さんは筋ジストロフィーによる筋力低下で電動車いすで生活しています。
二人とも前職や多彩な職歴・経歴をいかし、多角的に業務を担当する中で、Fortia各ユニットのメンバーとしてeスポーツ大会で活躍しています。

Mobility for ALLに応募したきっかけを教えてください。

細貝(敬称略)
私は以前、Webコンサルタントをしていて、障がい者向けのクラウドソーシングサービスに関わる業務に関わっていました。そこで、障がいのある方と共に何かに挑戦するやりがいが分かってきたんです。それにeスポーツが掛け合わさることで、その魅力や面白みが増すところもあって。

現在はePARAで、障がいのある方とeスポーツに関わる様々な挑戦を行っています。

GRガレージつくば試乗会の様子

今回のプロジェクトは、そんな日々の延長線上にある活動です。

障がいのある方と実際に接する中で、障がいで物理的にできない要因があることにより、心理的な部分で自分には無理だと決め込んでしまっている、そしてなかなか新たな一歩が踏み出せない方多くがいると感じます。

モビリティやモータースポーツについても同じで、物理的バリア、心理的バリアを持っている方が多くいます。
様々なバリアを乗り越えて、障がいのある方にどうやって楽しんでいただけるかということを探求したいと思っています。

準備段階として取り組まれていることを教えてください。

細貝 :
今回参加するメンバーは、Fortiaから声をかけさせてもらっているんですが、7割くらい、モータースポーツに興味のない方がいます

本プロジェクトの旅を経て興味がわくのか否かも見ていきたいと思っています。

初心者や興味のない方にいかに興味をもってもらうための施策として、モータースポーツが大好きな人達で構成される有識者会議があります。

GTWC岡山ラウンドオンライン観戦会のようす
GTWC岡山ラウンドオンライン観戦会の様子

モータースポーツを心から楽しむためには、豊富な専門知識や情報が必要です。有識者会議ではモータースポーツの基礎知識を分かりやすく図解したり、レース配信を観戦する企画を行ったりしています。

おかげでこれまでモータースポーツの関わりが少なかった方も、徐々にその魅力を理解できるようになっていると感じます

運営者や企画担当者だけが準備しているのではなくて、参加者がすでに動き始めているんですね。

細貝
まさにそのとおりです。例えば、モビリティ愛の強いドライバー6名で「有識者チームを結成し、初心者ドライバーにモータースポーツの魅力をわかりやすく伝える活動を進めています。

岡山国際サーキットレース&トリビアMAP

これは、その成果物の図解なのですが、障がいを持つデザイナーがチームで話し合った内容を図解してくれています。
わかりやすさがすごく好評です。

今回のプロジェクトでは障がいのある方×仕事」、「障がいのある方×挑戦」等も活動目的の一部に設定して取り組んでいます。

クロスラインという言葉は、交わるという意味ですか?

細貝
クロスラインとは、外側から内側に入り込んで前の車を追い抜いていくドライビングテクニックの名称です。

アイレーシング内でデザインしたePARAカー
iRacing内でデザインしたePARAカー

ゲームという「外側」の世界からモータースポーツの世界の「内側」に飛び込んでいくことを、クロスラインの走法になぞらえました。
また、いろいろな人生を歩んできた人同士の価値観や考え方がクロスし合い、バリアを超えるべく走りぬくというような意味も込めています。

仲間を集めて、旅をするために準備をして、クリアに挑む様子がロールプレイングゲームのように思えました。すでに動き始めている中で、苦労していることやこだわっていることはありますか。

細貝
本プロジェクトをロールプレイングゲームに例えてくださりうれしいです。まさに今、我々はロールプレイングゲームをしているような状態です。

ロールプレイングゲームの主人公は、数々の試練をクリアしながら少しずつ成長していきます。
本プロジェクトでも同様で、各チームでいろいろな試練(バリア)を乗り越えながら進んでいるという感じです。

10月15日には、eスポーツ内の岡山国際サーキットで、ボクたちのeスーパー耐久レースという企画を行います。全盲の北村さんは今、視覚情報を用いずにゲームでどれほど運転ができるか挑戦していています。

畠山さんは体調面の不安もあり岡山には行けないのですが、分身ロボットの中の人として旅に参加、先述の耐久レースにドライバーとしても参加する準備も進めています。

北村さんの挑戦について教えてください。

北村(敬称略)
ご想像のとおりだと思うんですけど、道も分からないというか。
自分がどこにいるのか分からないし、目の前に何があるか、どこで曲がらなければいけないのか、曲がる際にどのくらいハンドルを切らないといけないのか、把握するのがとても難しいです。

モータースポーツシミュレーションゲーム iRacing
モータースポーツシミュレーションゲーム iRacing

これまで格闘ゲーム野球ゲーム等をプレイしてきた経験がありますが、おそらく今までの中でレーシングゲームが一番難しいです。
サポーターに協力してもらいながら、左右を教えてもらったり、速度を音で記憶していく工夫をしています。

100%無事故で成功すれば、サポーターがいるとはいえ、すごいことなんです。しかし本番でもしぶつかってしまったら自分の演技力を発揮し、本当にぶつかったかのような演技で見てくれる方を盛り上げたいと思います。

畠山さんは岡山に来られないとのことですが、分身ロボットやレース参加の挑戦について教えてください。

畠山(敬称略)
分身ロボットを使い始め、様々な場所での検証を行っています。今のうちにいっぱい練習して当日楽しめるようにしようと思います。

また今回、レースに参加するためにアゴで操作するコントローラーを再開発しています。今も自作のアゴのコントローラーはありますが、もっと握力が不要なスイッチを準備しなきゃいけなくて。

今は押し込みをあまり必要としないスイッチを取り寄せ、箱に入れたり詰めたりしながら準備している状況です。
またプラグを買って、ケーブルを繋いだりとか試行錯誤しているところです。

コントローラー開発中のようす
コントローラー開発中の様子

オンラインとオフラインの融合

参加者にどんなことを感じてもらいたいと思われますか。

細貝
本プロジェクトは、今回フェーズ1として多くの気づきを生み出す機会と考えています。そして、障がいのある方もない方も、モータースポーツに関わってみて、楽しかった、特別な体験、最高の時間がもらえた、新しい自分を見つけられたという風にいろんな違いを体験してほしいと思っています。

そしてもっとモビリティを面白く体験するにはどうしたらよいか、一緒に考えてもらえたらと思っています。

最後にフェーズ2以降の、今後の展望について教えてください。

細貝
将来的にはオンラインとオフラインが融合したモータースポーツの世界を実現させたいです。

例えば、リアルな岡山国際サーキットとオンライン上の岡山国際サーキットで同時にレースを開催し、リアルタイムでラップタイムを比較する等です。

そうすると、モータースポーツのレーサーとして出場できる人は一握りでも、eスポーツで出場するレーサーの可能性は無限に広がります。障がいのある方も含め、全ての方がレーサーとして挑戦する可能性が出てくると思うのです。

フェーズ2ではその世界の実現に向かうためのMobility for ALLに繋がるソリューションを見出せたらと考えています。

車椅子ユーザーが初めてアイレーシングに挑戦
車いすユーザーが初めてiRacingに挑戦

運転に関して、畠山さんから車いすだってモビリティだぞ、僕らは運転歴が長いんだぞ、という話を聞きました。すごく大事な価値観だと思っています。

「誰もがレーサーになれる」は、今回の旅で畠山さんの言葉をきっかけとして、参加者の中から生まれてきた世界観です。
全ての方にレーサーの可能性が出てくる世界に向けていけたらいいなと思います。

おわりに

eスポーツイベント事業の他にも、ePARAが展開する事業はいくつかあります。いずれも、障がいのある方の社会生活を支援すると同時に、社会のバリアに働きかけるものばかりです。

Mobility for ALLでの挑戦も、障がいのある方自身が自らの可能性を見出すと同時に、周囲が違いに気づくことでバリアを乗り越えられる可能性を示唆しています。

「本気で遊べば、明日は変わる」

すでに変わり始めた世界が、すぐ先に見えているように感じました。

岡山国際サーキットday2

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