視空間認知障害の移動支援デバイス「LOOVIC」。誰もが移動しやすい社会システムの実現を目指して

ルービック

LOOVICルービック株式会社は、視空間認知障害による移動時の”迷い”を解決するデバイス「LOOVICルービック)」を開発する企業です。

LOOVICは空間認知能力を苦手に感じ、道に迷いやすいという問題を抱えた方をサポートするデバイス。首にかけるネッククーラーのようなデザインで、スマートフォンとのペアリングと骨伝導(こつでんどう)による音声伝達により、スマートフォンの画面を見ることなく道を案内してくれます。

「一人では、自由に外出できない社会課題」をテクノロジーで解決する。LOOVIC株式会社は、そんな挑戦を続けているのです。

視空間認知障害により道に迷う方をサポートするデバイス「LOOVIC」

ルービック(仮写真)

LOOVICは視空間認知障害により、空間認知能力を苦手に感じる方の生活を補助するプロジェクトに取り組んでいます。

空間認知能力を苦手に感じる方は、道を歩いて移動する際、向かう方向の感覚合わせが苦手だったり、景色が記憶に残りづらかったりします。そのため道に迷いやすいという問題があるのです。

多くの方は同じ道を数回歩けば、だいたい道順を記憶できるのではないでしょうか。

しかし空間認知能力を苦手に感じる方は、グラデーションはありますが、道順を覚えるのに1ヶ月や、中には1年以上かかることもあります。

そのためこのような方は、普段から同じ道を繰り返し歩くためのトレーニングをしたあと、自立歩行に向けて取り組んでいます。

自立歩行するなら、スマホの地図を見ればいいと思うかもしれません。しかし当事者にとって、スマホのながら歩きはとても危険です。

過集中や同時作業も苦手です。音声案内での直感的に左右の判断が苦手な方もいます。

また遠近をうまくつかめず、不注意の傾向もあることから、車道に飛び出してしまう等の危険性が常にあるのです。

そのため画面に集中して移動するスマートフォンのナビゲーション機能等には、苦手さを感じてしまいます。

そこで開発されたデバイスがLOOVIC。LOOVICは、地図を見ないで道に迷うことを解決するデバイス・システムです。

スマートフォンとペアリングし、骨伝導による音声で案内を伝達

ルービック(仮写真)

LOOVICはスマートフォンの地図アプリとペアリング。

LOOVIC本体はブルブルと震え、骨伝導によって「次の交差点を左」等といった地図アプリの道案内を使用者の身体に感じられるように伝えます。そのため画面を見ないで、景色に集中しながら歩けるのです。

普段より、なにかに集中すると周りが見渡しにくい方々に、周りの景色を少しでも多く見渡してもらえるようにする必要があります。

結果、視空間認知が苦手で外出に難しさを感じていた方々が、自立できるようになるのです。

このような方々は、従来家族や介助者とともに繰り返し同じ道を歩くトレーニングを行っています。

毎日、通勤・通学等があり、人が一緒に歩きます。

しかしながら人のリソース、コスト等を考えると、使い続けることが難しくなります。

仮に両方が解決できても、過度なリソースは自立を阻害します。人との相性もあり、難しい問題も山積みです。今すぐ、外出したくても気軽にお願いすることができません。

LOOVICは『同じ場所を繰り返し歩くこと』に、フォーカスしています。

一人で外出して帰宅すること自体は、ごく一般的なことかもしれません。しかし当事者にとっては苦手なことです。それにギャップがあり、周りには気づかれません。

『同じ場所を繰り返し歩くこと』にフォーカスしたLOOVICによって、苦手のない社会に向けて解決していくことから開始しています。

当事者家族という「超・自分事」だからこそ、当事者に寄り添える

ルービック:山中享 代表
代表 山中享さん

視空間認知障害による移動のサポートデバイス「LOOVIC」の開発をするLOOVIC株式会社。代表取締役の山中 享(やまなか とおる)さんに話を聞きました。

LOOVICの開発を始めたきっかけを教えてください。

山中(敬称略)
きっかけは、私の息子です。私の息子は、視空間認知障害があります。長いあいだ息子とともに道に迷いやすい、道順を覚えにくい等の難しさに向き合ってきました。

どこへ行くにも私と一緒に歩くという、『道の記憶のため』の歩行トレーニングが発生します。覚えるまでに時間がかかります。

息子が社会に出たとき、誰かに支援をしてもらわないといけなかったら、移動できる範囲は狭くなりますよね。すると自由な外出が難しくなってしまいます。

私は息子に自立し、一人で出かけ、一人で帰宅できるようになってほしいという思いがあるのです。そのためには、どうすればいいか?この思いからLOOVICは始まりました。

そして息子と同じように、視空間認知障害により道に迷いやすい等の悩みを抱えた方が、自由に外出できるような社会にしたいと考えています。

クラウドファンディングも実施していましたね。

山中
はい。でもクラウドファンディングの一番の目的は資金集めではありませんでした。

一番の目的は、私達が行っている視空間認知障害をサポートするデバイス開発という活動を、少しでも多くの人に知ってもらうこと。

視空間認知障害という言葉や特徴を知っている方は、まだまだ少ないと思います。視空間認知障害の方が、どんな苦労をしているのかを知ってほしかったんです。

LOOVICの仕組みは、ナビゲーション(ナビ)とは違うのですか?

山中
一見すると似ている印象があるかもしれませんが、実はナビとLOOVICはまったく概念の違うものなんです

ナビは地図を基準に案内をするものですよね。

LOOVICは、当事者の方が見ている景色を元に案内するのです。
目の前の景色・空間が地図と考えています。

ナビは地図のルートのとおりに「次の交差点を右」とか「まっすぐ」とか案内します。

もちろんLOOVICでもナビのような案内もしますが、道路を渡るときに「気をつけて」とか「危ないよ」とか警告をするのです。

またナビは目的地に着くために案内しますが、LOOVICは目的もなく道を歩いているときにも、目の前の景色に対して案内・警告を出します。

ちょうど当事者の横に、透明のガイドさんがいて案内や警告をしているイメージですね。

将来的にデバイスを応用してやってみたいことはありますか。

山中
LOOVICは徒歩による移動のサポートとして開発しています。今後は移動できる人達、移動する楽しみを人々とともにつくっていきたいです。

例えば、デバイスがあるから外出をしたくなる。すなわち、移動するモチベーションです。そうすれば、いつでも人が移動する健康寿命を伸ばすきっかけにも繋がります。

さらには歩くことだけでなく、ナビに共通する地図という概念ではなく、景色を地図としてみなす概念が、自転車での移動にも役立てられるように対応できるようにしていきたいですね。

さらにその先、自動車やバイク等の乗物にも対応していければと思います。

また骨伝導による音声伝達は、鼓膜等 耳に障がいをお持ちの方にも有効です。そのため、将来的には耳の不自由な方の補助デバイスとしても応用していければと考えています。

ですがその前に、今のLOOVICをもっとブラッシュしていきます。

10月15日・16日、岡山国際サーキットでの実証実験では、どんなことを行いますか?

山中
サーキットの会場で、LOOVIC試作品を視空間認知障害の方に使ってもらい、会場内を実際に移動していただきます。

当日は5名ほどの当事者の方に、試してもらう予定です。

プロジェクトや製品により、社会にどのような影響があると考えていますか。

山中
実は、私達はデバイスができあがったからといって、それで視空間認知障害の方の問題が解決するとは考えていません。

デバイスだけでなく「移動しやすい社会」「誰もが移動に困らない社会」がなければ、当事者の問題は解決しないと思っています。

それは「移動しにくい方々」がいる場所に「移動する仕組み」をつくるということです。そしてその「移動する仕組み」をつくりやすい社会にする活動を、私達はテクノロジーという分野で行っています

デバイスをつくるだけでは、社会を変えられません。私達は社会システムを変える社会システムをつくるという点までフォーカスした活動に力を入れています。

事業への思いやこだわりを教えてください。

山中
私達の仕事は、究極的なことをいえば「超・自分事」なんです。

なぜなら、私の息子が視空間認知障害ですから。今晩、道に迷ってしまって帰ってこられないかもしれない。明日、交通事故にあってしまうかもしれない。そんな不安をいつも抱えて生活しているから。

だからこそ、早く実現しなければならないんです。

ですので私達の活動は「実現したい」ではなく、「実現せねばならない」と考えています。

そして当事者をもつ家族だからこそ、視空間認知障害で苦しむ当事者の方に寄り添った活動ができると思っています。

絶対に当事者を忘れてはいけない

最後に、山中さんは次のように語りました。

私達のやっている活動は、絶対に当事者を忘れてはいけません

自分の息子が視空間認知障害により道に迷いやすく、事故に遭いそうになるヒヤリ・ハットな毎日があることで、いつも不安を抱えているという山中さん。

空間認知が苦手な当事者にとって分かりやすいナビは、誰にとっても分かりやすいナビになる。

すなわち老若男女の誰もが障がいを問わず利用できる、苦手を苦にせず移動できる社会のために、視空間認知障害の方から始める「社会システムを変える、社会システムをつくる」ということ。

山中さんの熱い思いが伝わってきました。

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