2017年に創業した、ピクシーダストテクノロジーズ株式会社。デジタル化と旧来の価値観の間にある平衡点を探求し、「誰一人取り残さないデジタル中心社会」を目指しています。
デジタルによる多様性を叶えるため様々な研究開発を進める中、代表的なサービスとして生まれたのが「SOUND HUG(サウンドハグ)」です。
SOUND HUGは、音を光と振動で体感できる球体型のツール。誰もが音を体感できる世の中を目指して、コンサート会場を中心に導入されてきました。
Mobility for ALL では、SOUND HUGを初めてモータースポーツ会場へ。SOUND HUGを通して音の臨場感を伝え、会場でのレースの空気を誰もが濃密に楽しめるよう実証実験を重ねています。
「SOUND HUG」プロジェクト内容
プロジェクトでは、レース会場でのSOUND HUG導入を目指し、聴覚障がいの有無にかかわらずレースの音を体全体で楽しむ方法を提案します。
聴覚障がいの程度によらず、音でもレースの楽しさを伝えたい。レースを観ることは映像でもできますが、現場の音の中に身を置くことは会場でないとできません。SOUND HUGの導入により、レース会場ならではの音を光と振動で届け、誰もがモータースポーツの魅力を存分に味わえる体験を提供したいと考えています。
10月15日・16日には、岡山国際サーキットにてSOUND HUGの実証実験を行います。導入することで得られる効果について評価・ヒアリングを実施予定です。
SOUND HUGとは
SOUND HUGとは、抱きかかえることで視覚と触覚で音を楽しむための球体型のツールです。音に合わせて光ったり振動したりするため、抱きかかえると体全体で音を感じることができます。
光の場合、高い音は赤、低い音は青に光り、間の音は赤と青のグラデーションで表現。要望によっては色のカスタマイズも可能です。
大きさは直径30cmくらいで、抱きかかえるのにちょうどいいサイズ。また触ると堅くないのも特徴で、振動のしやすさと安全性を考慮し軽いプラスチックでつくられています。
2018年からコンサート会場での導入を重ねてきました。今回は音楽や語り以外で初めてとなる、モータースポーツの会場への導入を目指します。
プロジェクト主担当の長谷芳樹(ながたに よしき)さんはじめ、黒田藍子(くろだ あいこ)さん、高澤和希(たかざわ かずき)さんに、コンテストへの意気込みや目指したい未来についてインタビューしました。
SOUND HUGで、モータースポーツの醍醐味である“音”の体感を
―Mobility for ALL に応募したきっかけを教えてください。
長谷(敬称略):
SOUND HUGは、聴覚障がいのある方でも音楽コンサートを楽しめるシステムとして開発してきました。ただ、音楽ではないジャンルでも導入できる場があると思っていたので、今回のコンテストに挑戦してみようと思いました。
そもそも私は、モータースポーツを観に行くのが好きなんです。社員の高澤も好きなので、今回の応募にあたりプロジェクトに入ってもらいました。
モータースポーツは「観戦する」と言いますが、私にとっての醍醐味は“観る”ではなく音を“聞く”こと。もっと言うと、音の“圧”を感じに行くのが楽しみなんです。
高澤(敬称略):
会場でしか感じられない、あの音がいいんですよね。
長谷:
そうそう。なので「SOUND HUGとレース会場は親和性が高いはず」と、以前から思っていました。
Mobility for ALLをきっかけに、レース会場に行くからこそ感じる音の臨場感をSOUND HUGで補完できたらと考えています。誰もがモータースポーツを楽しめる環境を当たり前にしたいです。
ストレスなく全身で音を楽しむ方法を模索
―そもそもSOUND HUGは、どのような経緯で開発されたのでしょう。
現在のSOUND HUGももちろん、障がいの有無に関わらず音を感じていただけるのですが、「聴覚障がいのある方にも音楽を届けたい」という想いから開発が始まりました。
何度も検証を重ねて、現在の球体型のSOUND HUGになりました。
―以前は違う形だったのですね。現在の“ハグ”できる球体型は、一度見たら忘れられない印象的な形でした。
黒田:
形を決めるところは、当時本当に苦労しまして……。「音を全身で感じてほしい」という思いを軸にしながら、様々な形を試しました。大きな風船を抱えたり、長い風船を首に巻き付けたり、ライフジャケットに風船を詰め込んで検証したこともあります(笑)
検証を重ねていくと、最も振動を感じるのは指先だと分かりました。膝の上に置いて、抱きかかえると自然と指先が触れる今の形になったのはそのためです。万が一当たっても怪我がないよう、軽くて柔らかいプラスチックを採用しています。
長谷:
ハグできるサイズのもうひとつのメリットは、SOUND HUGを凝視しなくても、光がほわんと視界に入ることです。目線はあくまでも、舞台上の演奏者達。演奏している姿と、ぼんやりとした優しい光が連動することで、ストレスなく全身で音を体感できるように工夫しています。
―開発段階で、聴覚障がいのある方には実際に使っていただきましたか?
黒田:
はい、かなりご協力いただきました。印象に残っているのは、「振動はもう少し弱い方がいい」とのご意見が多く集まったこと。強い振動は、疲れの原因になることもあるようです。
私達だけで検証していたときは「もう少し強い振動がいいのではないか」と話していたので、ご意見をいただける場は貴重でありがたいなと思います。
実証実験の軸は「どのような音を伝えたいか」
―10月15日・16日には、岡山国際サーキットにて実証実験を控えていますよね。事前準備はどのように進めていますか?
長谷:
まずは、普通車の音とSOUND HUGを連動させたらどうなるかを検証しています。そしてカーレースの映像等ですでに録音されている音を使い、SOUND HUGがどのように光るか・振動するかを試しているところです。
―サーキット会場ならではの難しさかもしれないですね。
長谷:
そうですね。あとは醍醐味である音が、どのくらいマイクで拾えるかも最終的には会場で検証することになります。マイクをどこに立てて、お客様にはどこへ座っていただくか。テクノロジー面での調整というより、「どの場所が最もSOUND HUGの機能を活かせる場所か」を検証していくと思います。
―実証実験の軸になりそうなことは何ですか?
長谷:
SOUND HUGを使うことで「何を伝えたいか」を明確にすることです。演奏会であれば、「〇〇の楽器の音を届けたいから、〇〇の曲を演奏した方がいい」等と細かい部分まで調整します。モータースポーツでも同様に、「どのような音を伝えたいか」を軸に、検証していく予定です。
私としては、サーキット会場だからこそ感じるエンジン音等の「音の変化」を伝えたいなと思っています。スピードの加減速を感じる場所に、マイクを置けるといいですね。
ただ、どこに座席やマイクや設置させていただけるかは分からないので……。岡山国際サーキットへ行った際、スタッフの方と相談してできる限り検証していきます。
誰もがモータースポーツを楽しめる対象者であると、伝え続ける
―今後モータースポーツの会場にSOUND HUGを導入したら、どのようにレースを楽しめると思いますか?
長谷:
最終的にはモータースポーツの魅力そのものを、障がいの有無に関わらず、会場で誰もが感じられるようになったらと思います。
私が初めてレースを観に行ったとき、敷地内に入ったときから聞こえた「バリバリバリッ」という音がものすごく衝撃的で。レース中に感じた音の圧も含めて、TV観戦とは全く違う体験でした。聴覚障がいのある方でも、SOUND HUGを使うとその魅力を少しでも感じていただけるのではないかと思います。
あとは聴覚障がいのない方でも、SOUND HUGをレース会場で見たらモータースポーツにさらに興味を持つかもしれないですよね。私個人としては、モータースポーツファンが増えて、いろいろなレースが地上波で放送される日が来たらハッピーだなと思います。
高澤:
まずは会場での実践が第一ですが、将来的には会場にいなくても、会場の臨場感を味わえるようなツールになったら最高だなと思います。例えばレースを家で観ながら、SOUND HUGが遠隔で光ったり振動したりしたら面白いですよね。
―夢が拡がりますね。
長谷:
そのために私達は、聴覚障がいがあってもモータースポーツを会場で楽しめることや、誰もが楽しめる対象者であることを伝え続ける必要があると思います。「モータースポーツは、誰もが楽しめて当然だよね」という認識になるまで、メッセージを発信し続けたいです。
―最後に、応援してくださる方へメッセージをお願いします。
長谷:
重ねてにはなりますが、モータースポーツの醍醐味は視覚以外の要素も非常に大きいと考えています。とくに「音」を感じに行っているモータースポーツファンは多いはずです。
SOUND HUGを使うと、レーサーが感じているようなリアリティのある音を、聴覚障がいのある方も楽しんでいただけるかもしれません。また聴覚障がいの有無に関わらず、今まで誰も感じたことのない臨場感で、モータースポーツを楽しめるシステムでもあります。SOUND HUGを通して、モータースポーツに触れる際の追加の喜びを提供できたら幸いです。