道案内と障害物の案内、どちらも叶える「Eye Navi」。視覚障がい者一人ひとりに寄り添う機能で、誰もがスポーツ観戦を楽しめる社会へ

私達の日常生活では、デジタルとの融合が欠かせなくなってきました。AI技術は急速に発展を続けていて、人手不足や安全確認等の課題解決に繋がる点でも注目されています。

特に視覚障がいのある方の生活において、減少傾向にある盲導犬同行補助者の役割をAI技術が担えるとの考えが増えてきました。その研究開発をしているのは、2015年に創業した株式会社コンピュータサイエンス研究所です。

Mobility for ALLでは、開発中のアプリ「Eye Navi(アイナビ)」を用いて視覚障がいのある方の安心安全な歩行を可能にすることに挑戦します。「誰もがサーキット等でのスポーツ観戦を楽しめる世の中にしたい」、そんな思いで実証実験に向けて準備を重ねています。

道案内ほか、機能を自由にカスタマイズできる「Eye Navi」

Eye Navi_案内

Eye Naviとは、視覚障がい者歩行支援アプリです。AI人工知能を使った画像認識と、視覚障がい者に寄り添った経路案内の2点を実現しています。iPhone専用のアプリとして、2022年度中のリリースを目指し開発中です。

Eye Naviを使う際、まずはアプリを起動し、道案内モードお散歩モードかを選びます。

eye Naviイメージ

次に必要に合わせて、ナビゲーションの内容をカスタマイズします。通常は、自分の正面かつ3~5m先にある障害物を検知しながらナビゲーションしていますが、カスタマイズ次第では広範囲の障害物情報を得ることが可能です。

また自宅や目的地の登録および編集、「カフェ」「銀行」等ナビゲーションする施設のジャンルを選択する機能等があります。Eye Naviを使う方一人ひとりが、使いやすいように設定できるのが最大の特徴です。

iPhoneを首から下げ、カメラで自分の正面を認識できるようにしたらナビゲーションをスタート。道案内モードの場合は、目的地までの経路をあらかじめ案内してくれます。歩き出す前に頭の中で地図をイメージできることで、視覚障がいのある方が少しでも安心して歩き出せるような工夫です。

Eye Naviが障害物として画像認識できるのは、約50種類(2022年9月時点)。例えば点字ブロックや縁石、人、車、歩行者信号等を認識できます。

音声案内の聞き方も、使う人によって変更が可能です。iPhoneから直接音声を聞いたり、Bluetoothでイヤホンを連携させて聞いたり、骨伝導のイヤホンを付けたりできます。

「『視覚障がい』と一言でいっても、見え方や感じ方は一人ひとり違います。Eye Naviが設定を細かくカスタマイズできるようにしたのは、弱視の方も全盲の方も使用できるアプリにしたかったからです」

そう話すのは、株式会社コンピュータサイエンス研究所 代表取締役の林秀美(はやし ひでみ)さんと、プロジェクト担当の髙田将平(たかた しょうへい)さん。Eye Navi開発時のエピソードやMobility for ALLへの意気込みをインタビューしました。

誰もが会場でスポーツ観戦できる世の中に

Eye Navi_歩行

Mobility for ALLでは、「Eye Navi」の使用により視覚障がいのある方への歩行支援音声で行うことを提案しています。具体的には、サーキット会場の客席までの道案内と、会場内の案内を実現予定です。

サーキット会場の客席までの道案内では、シャトルバス下車位置からサーキット会場の客席までの案内をEye Naviの音声案内で実施します。

会場内ではお手洗いや出店、最終コーナーを目的地とした、既存の地図上には経路がない場所への案内を検証予定です。会場内外において、人や障害物にぶつからないよう注意喚起を行うほか、曲がるポイントや残りの距離等を音声で伝えていきます。

さらにEye Naviのビデオ通話機能を活用し、オペレーターと繋いで遠隔で歩行をサポートする機能を新たに開発中です。いざというときの安心感を提供できると考えています。

Mobility for ALLへの挑戦を通して、Eye Naviが視覚障がいのある方にとっての安心に繋がる歩行サービスへと進化しながら、サーキット等のスポーツ観戦を誰もが会場で楽しめる社会を目指していきます。

新たな機能を開発し、一人も取り残さない社会を実現したい

Mobility for ALLに応募した理由を教えてください。

林(敬称略)
Mobility for ALLへの応募を勧めてくださった方がいたのがきっかけでした。

コンテストの概要を知ったとき、プロジェクトを通してEye Naviがさらに誰一人として取り残さない社会の実現に一歩近づけると思ったんです。

現在のEye Naviの機能である地図上の道案内に加え、会場内のナビゲーションやビデオ通話機能を開発したいと思っていたので、今回の応募がいい機会になるのではと考えました。

道案内と障害物の案内、どちらもEye Naviが叶える

Eye Navi_ナビ
そもそも、なぜEye Naviを開発しようと思ったのですか?


視覚障がいのある方が、もっと自由に行きたい場所へ行けるような世の中にしたいと思っていたからです。

20年ほど前、私がコンピュータサイエンス研究所を起業する前に、株式会社ゼンリンという地図をつくる会社で働いていたときから実現したかったことでした。当時のAI技術は今より発展していなくて、信号機や横断歩道の識別ができずに開発を断念したんです。

今のAI技術があれば、やりたかったことを実現できそうだと思い、2015年に起業し開発をスタートしました。

林社長が、ずっと叶えたかったことだったのですね。


現在の視覚障がいのある方の人数に対して、盲導犬の数と同行援護従事者の数はすごく少なくなっています。それに盲導犬は、段差等の危ない場所は教えてくれるけど、道を教えるのは難しいでしょう。

道案内のアプリであればナビゲーションしてくれますが、信号が青に変わったことを伝えることはできません。障害物があることと道案内をすること、既存のサービスではどちらかしか選べないのが現状なんです。

私達はその両方をひとつのアプリにして、視覚障がいのある方が使いやすいかたちで安心安全な歩行ができるようサポートしたいと考えています。

GPSの誤差や点字ブロックがない場所を、どう補うか

開発にあたって苦労しつつも、こだわっていることは何ですか?


GPSの精度をアプリの機能で補うことです。

例えば建物が密集している場所は、人工衛星の電波がどうしても反射してしまいGPSの誤差が起きます。修正するために別の機械を借りたとしても、やはり誤差が出るんですね。

この課題をどう解消していくかを考えたときに、誤差を縮めるための仕組みをアプリの機能としてつくろうとしています。今も試行錯誤していますが、非常に大変なところです。

また点字ブロックがない場所でのナビゲーションにも苦労しています。Eye Naviは基本的に点字ブロックがある場所で使うことを推奨していますが、点字ブロックがない場所も実は多くあります。点字ブロックの代わりとなる目印を探して機能をカスタマイズしたり、Eye Naviを使う方ご本人の白杖や聴覚を頼りにしたりしながら、総合的にナビゲーションする方法を模索中です。

周辺の施設案内は、新たに行きたい場所が見つかる可能性を秘めていた

開発時、本当に多くの視覚障がいのある方にEye Naviを使ってもらったと聞いています。ご意見の中で、特に印象に残っていることはありますか?


ひとつは、私達の想像以上に速いスピードの音声を聞き取れる方が多かったことです。私にとっては話しているのか分からないくらいのスピードでも、聞き取れていたので大変驚きました。

社内では「音声をもっとゆっくりにした方がいいんじゃないか」と話していたのですが、ゆっくりだともどかしく感じる方や、音声を聞いているうちに障害物にぶつかってしまうから危ないと教えてくださった方がいました。

ご意見をいただいてから、Eye Naviの機能としては1から90までの間で音声のスピードを設定できるようにしました。使う方によって、聞き取りやすいスピードに調整していただけます。

実際に視覚障がいのある方に使っていただいたから実現した機能なのですね。


もうひとつは、これまでに何度も通ったことがある道でEye Naviを試した方が、すごい笑顔で戻ってきてくださったのが印象に残っています。「どうしたんですか?」と聞くと、彼は「スターバックスコーヒーがあると教えてくれたんですよ!」と言ったんです。

何に感動しているのだろうと思いさらに聞いていくと、「たぶんこういう道なんだろうな、と想像しながら歩いてはいるけど、周辺に何があるかなんて全然分からないまま歩いていた。Eye Naviがスターバックスコーヒーがあると教えてくれたのが、すごいうれしかった」と言っていました。

Eye Naviが何気なく伝えていた周辺にあるものの情報は、視覚障がいのある方にとっては“今度行ってみたい場所”が新たに見つかる可能性があることに気が付けたのです。私も彼の様子を見て感動して、もっと役立つアプリにしていきたいとの思いを強くしました。

下見を経て、会場内の案内や遠隔のナビゲーションができるよう調整中

Eye Navi_下見
10月15日・16日には、岡山国際サーキットで実証実験を控えていると思います。現在はどのように準備を進めていますか?

髙田(敬称略)
一度会場で下見を行い、会場内のお手洗いの場所等を確認しました。今は会場内の地図や経路を独自に作成し、音声案内できるように準備しています。会場内には点字ブロックがないことも分かったので、会場の通路上の白線をもとにナビゲーションできるようEye Naviの機能を調整しているところです。

また、カメラ機能がある強みを活かした検証もしていきます。例えばお手洗いは、入口に辿り着いても男性用なのか女性用なのかをGPSだけで判別するのは非常に難しいです。実証実験当日は男女のお手洗いそれぞれの入口にQRコードを貼り、Eye Naviのカメラで読み込んで、音声案内できるようにしたいと考えています。

そしてビデオ通話機能を活かして、オペレーターが遠隔で道案内等を支援する実証も予定しています。当日は視覚障がいのある方にも来ていただき、新たな機能を追加したEye Naviを試せるよう準備中です。

今後は、Eye Naviを様々なスポーツ観戦の会場に展開したい

会場内でもEye Naviがナビゲーションしているのを楽しみにしています。最後に、今回のプロジェクトを通して叶えたいことを教えてください。


視覚障がいのある方が心の中で思っている「サーキット会場に行きたい」願望を叶え、さらに会場での時間が楽しくなるようなナビゲーションを提供したいと考えています。

私が知り合った方で事故によって後天的に全盲になった方がいるのですが、事故前はレースが好きでよく観に行かれていたらしいんです。Mobility for ALLでの実証実験のご協力をお願いしたら、ものすごく喜んでくださいました。この方のように、普段口にすることはないけど「レースを会場で楽しみたい」「生でレースの音を聞きたい」と思っている方はいらっしゃるはず

視覚障がいのある方がレース会場での時間をより楽しんでいただけるように、Eye Naviのさらなる機能の充実を実現させたいと思っています。

そしてサーキット会場だけではなく、今後は様々なスポーツ観戦の会場に展開していきたいですね。一つひとつの施設の地図をEye Naviが用意していけば、視覚障がいのある方の行動範囲が拡がっていくのではないかと思います。Mobility for ALLへのチャレンジは、そのための大きな第一歩。最後までがんばります。

Eye Navi_アイキャッチ

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